2011年11月11日(金)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) 

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
著者:伊藤 計劃
出版:早川書房
発行:2010/02/10

評価〔A-〕 質の高い近未来軍事SF
キーワード:SF、近未来、虐殺、管理社会、

この男が入った国は、どういうわけか混沌状態に転がり落ちる。この男が入った国では、どういうわけか無辜の命がものすごい数で奪われる。(第二部より抜粋)


近未来、先進国は何をするにしても生体認証が必要なほど高度な管理社会となったが、途上国では未だに内戦・紛争が続いている世界。米国情報軍所属のクラヴィス・シェパードは、ある人物を追う任務に就きます。その人物は、各地で起こる虐殺と関係しているようだけれど、詳細は不明となっています。謎の人物の目的は何なのでしょうか?……という近未来軍事SFです。

軍人であるクラヴィスを主人公にし、戦争やテロをテーマにしている一方で、彼の死に関する個人的な考えや心情をもう一つの軸としていますので、シーンによっては心理描写が多く、軍事小説っぽくなくて新鮮でした。クラヴィスの敏感な内面を見ていると、帯に「現代における罪と罰」とあるのも、分かるような気がしました。それに加えて話の中にでてくるちょっとした豆知識や、様々な登場人物たちの哲学的な会話も面白いです。

軍の装備や任務の様子、現金を見るのが非常に稀となった社会の描写は、どのくらい先になるかは分からないけれど、こんな未来になりそうだという雰囲気があって、説得力があります。現実感といっても良いかも。設定や舞台が細部まで凝っていて、とてもしっかりした小説です。内容が社会への問題提起となっている点も見逃せません。

ただ筋書きそのものは絶賛というほどでもありませんでした。軍事ものがあまり好きではなかったからでしょうか。構成や展開は斬新ではありませんでしたし、驚くような伏線もなかったと思います。エピローグは予想と違って、おぉっとなりましたけれど。物語の核となるあの器官の仕組みを、他の部分と同じくらい説明していれば、もっと良かったのになあ。

伊藤計劃という最後の字が何と読むのか分からない、そして凄く評判の良いSF作家がいたのは知っていたのですが、こうして作品を読んだのははじめてでした。しっかりしていて現実感のあるこの小説は、硬派なSFファンにうけるのも頷けます。しかし、軽く明るい夢のあるSFでは決してないので、その点はご注意を。夭逝したのが惜しまれます。著者の最後の長編「ハーモニー」の粗筋を見たら好みでしたので、読むのが楽しみです。





【ここからネタばれ】
虐殺の器官・文法のアイディアが、前に読んだ山本弘の「シュレディンガーのチョコパフェ」にある「メデューサの呪文」と似ていたので、あまりインパクトが強くなかったのが残念でした。評価Sに届かなかった要因のひとつがこれです。
また、4部終盤であれだけの列車事故だったにもかかわらず、5部でジョンが余裕で生きていたのもなんか引っかかります。それなりの理由があれば違和感を感じずにすんだのに。

【ネタばれここまで】
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[ 2011/11/11 20:28 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

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