評価〔B-〕 ゲーム性溢れるラノベです。キーワード:サスペンス、ゲーム、
「この部屋から外に出ることは自由です。しかし、いったん外に出たら、戻ってこられる保証はありません」
この部屋の外。外には何があるのか。(本文より抜粋)
突然理不尽なゲームに巻き込まれるのは、どういう気持ちなんでしょうか。
高校生・千葉紀之はふと気がつくと、クラスメイトと共に教室のような部屋に閉じ込められていた。ソフィアと名乗る人工知能は、自分に従っていれば命は保証はする言います。しかし、彼はその言葉を拒否してしまいます。ソフィアの言う仕事とは何なのか?この部屋の外はどうなっているのか?不可解な状況における人間の心理を描いたラノベです。第13回電撃小説大賞「金賞」受賞作。
この著者の作品は皆、緊迫したゲームのようなものが行われ、登場人物たちが様々な対応をするみたいですが、本書も同じタイプです。不安と好奇心を刺激され物語に引き込まれますが、以前読んだ『殺戮ゲームの館』と比較すると幾分落ちるような気がします。物語の展開の違いのせいなのか、それとも心理描写の差なのか。
他人の書評を見ると、主人公の紀之の評価が芳しくありません。まあ、確かに我侭ではありますけど、彼のようでないとあのように話が進まないしなー。女子生徒たちのほうが個性的でしっかりしているからか、彼の悪い点が際立ってしまいがちです。個人的には、彼の性格よりも放り投げてしまったかのような終わりのほうが問題です。どうしてあの結末なのか。2巻に続くそうですが、上下巻などと記載されていない以上、何らかの区切りはあると思っていたのですが……。本書だけで評価するなら、低い評価でも仕方ないと思います。
焦りや苛立ちなどの心の弱さの描写や駆け引きの場面は良いのですが、やはり本書の最後を考慮すると高評価とはいきません。ゲーム小説は好きですし、登場人物たちの違いも面白いですけどね。
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評価〔B-〕 推理小説っぽくないですキーワード:中学生、少女、現代、ミステリ風
用意するものはすりこぎと菜種油です、と静香は言った。また、くだらないことを言い出したものだなぁ、とあたしは思った。(一章より抜粋)
大人になっても子供の頃に何を考えていたかをはっきり覚えている人は、どれくらいいるのでしょうか。子供の気持ちを忘れてしまって、うちの子は全然勉強しなくて困るなどと言っている人は結構いると思います。思春期、さらに異性の気持ちとなったら、推し量るのはさらに困難です。僕にとって異性の子供、少女の心境を描いた小説です。
推理小説を読んでみたいと思って読んだら、全然推理小説っぽくなくて驚きました。確かにそれらしき出来事は起こるのですが、主として押し出されているのはあくまで少女の世界であり、微妙な年頃の子の姿です。トリックを期待して読んだのは間違いでした。
一方、友だちとのやり取りや、親との距離感、男の子との関係は、どの描写も説得力あります。家庭にある問題を抱えているが、中学生の身としてはすんなり解決することができない焦燥感が上手いです。どこか著者の他作品「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」に似ています。少女小説としては読み応えがあって良いと思います。
終わり方も読者に想像する余地を残しています。あれからどうなったか知りたい人もいるでしょうけど、悪くないと思います。余韻が良いので。