2012年03月30日(金)
評価〔B〕 悪魔紹介の図鑑ではありませんキーワード:箴言、ブラックユーモア、ジャーナリズム、アメリカ、 電話 (telephone n.) 気に食わぬ奴を寄せつけないでおく便宜の一部を放棄せざるを得ぬ悪魔の発明品。(本文より抜粋)
最初手に取った時は、様々な悪魔を紹介している本かと思ったのですが、そうではなく、まるで悪魔が書いたかのように辛辣でブラックユーモアあふれる辞書です。芥川龍之介にも影響を与えた、アメリカ草創期のジャーナリスト・ビアスによる箴言用語集。 名言集はたいてい深みのある真面目な言葉が列挙されているのですが、本書は思わずひどいと笑ってしまうような皮肉と風刺に満ちています。こういったものは、権力や財力のある人が目標になるものですが、彼はそれだけでは飽き足りないとばかりに、。「歯医者」「銀行預金」などたくさん書き連ねています。また、特定の人たちだけでなく普遍のものとして人の心を皮肉っている項目もあり、「友のない」「無謀な」「罵詈雑言」「無感動の」が目につきました。「無感動の」は、あれで良いのでしょうか……。 しかし、機知に富んだ教訓もきちんと書いています。例えば、怠惰を 悪魔が新しい罪なる種でもってさまざまな実験を試み、かつ主要作物である悪徳の成長を促進させる模範農園。
と説明しています。「運命」「哲学」の項目も興味深いです。「誕生」の説明は、シェイクスピアでも似たような表現がありますよね。リア王だったかな。単なるブラックユーモアで終わらず、物事の違う見方を示してくれるのが面白いです。 項目ごとに文章の量が異なりますが、長いのより短いほうが切れが鋭く面白いと思います。また、宗教関係から引用していて、分かりにくい項目もありました。少々残念です。 ブラックユーモアを解さないもしくは苦手な方は読まないほうが良いです。それに、女性にもすすめられません。編者が女性に対して大変辛らつであるからです。書いた本人のせいか、当時の社会のせいかは分かりませんが。もし、読むならば真面目に読まず、あくまでブラックユーモアだということをお忘れなく。
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2012年03月28日(水)
評価〔A〕 ついに激突キーワード:時代劇、江戸時代、不死 「よもや現世で会えるとはのう……!」(本文より抜粋)
前巻の終盤で敵とあいまみえた公儀と逸刀流先行隊でしたが、ついにその火蓋を切ります。 小競り合いや一対一なら今までにも会ったのですが、こうして多対多の戦闘が始まると凄まじいです。決着をつけて欲しいけれど終わって欲しくない複雑な心境、かつドキドキと緊張しながら読みました。良かったです。六鬼団と逸刀流の新人門下生たちの戦いは、予想よりも、いや予想どおりだったかな……。それにしても勝又と亜門は同じような実力なのに、見せ場でどうしてかくも差がついたのか。頭巾で拷問係の六鬼と戦った彼の健闘をたたえたいです。 また、逸刀流副将・阿葉山の奮戦も盛り上がりました。なかなか実力を見せる機会に恵まれなかったのですが、副将の名に恥じない強さです。しかし、まさかあんな戦い方をするとは……と思ったのですが、よーく考えればあれもなくはないんですよね、前例もあったことですし。 無骸流として参戦する偽一の出番もあります。彼も活躍しますが、やはり本書は逸刀流のための巻であったと思います。今までためておいたものを一気に放出したかのような、六鬼編の大きな山場でした。大勢が決してしまったかのように見えるので少々寂しいですが、まだどちらも大将が残っているので、どのような結末になるかは分かりません。最後まで見届けようと思います。
2012年03月23日(金)
評価〔B-〕 数学がらみと殺人事件キーワード:推理、謎解き 「その証明は、エレファントだな」(本文より抜粋)
ミステリ同好会と一緒に謎のおじさんに付き合う「エレファント」と、画家とその教え子たちの殺人事件「動機とアリバイ」の二編です。 前者は、数学の超難問だったポアンカレ予想を絡めたお話ですが、実はこれ、数年前にNHKで放映された実写版を見ていたので粗筋は知っていました。細かいところは忘れていましたが、海賊の決め台詞の「エレファント!」は印象的でした。そういえばポアンカレ予想って証明されたんだよね。学問の進歩に感服しました。 後者は、推理もので定番の殺人事件です。動機とアリバイがかみ合わないのが見所なのですが、ある重要な点にすぐ気がついたので、あまり悩まなかったのが少々残念です。でも、予想通り犯人は当たったのですが、燈馬が最後に指摘したあの証拠には驚きました。あー、でもアレ、経験から当然気がつく人もいるんでしょうね。 そろそろ一冊まるごと使った長編が読みたいなあ。
2012年03月19日(月)
評価〔A-〕 犯人よりも謎が気になります。キーワード:不死、現代、学園 「この学校に、永遠の命を持った生徒がいるそうなんですよ~」(本文より抜粋)
不死と言って連想するのはファンタジーの神々やSFで登場する未知の生命体ですが、もし不死の存在が現代日本の学校に現れたらどうなるのでしょうか。この合わない両者をうまく組み合わせたのが本書です。 若手の教師・伊藤が転任した女子校には、永遠の命を持つ生徒がいる、という噂がありました。よくある学校の怪談のようなものだと彼は思っていたのですが、ある日唐突に、死なない生徒だと自称する女子生徒が目の前に現れます。しかし、その彼女はまもなく殺されてしまいます。彼女の言った永遠の命とは何なのか?彼は彼女の謎を追います。帯の宣伝文句「死なないはずの女が死んだ」がとても良いと思いました。 独創的ミステリと称していますが、推理小説みたく誰が犯人かを当てるのではなく、永遠の命の謎を解くサスペンスに近いと感じました。伊藤同様、信じられないけれど、うまく説明できない事象が起きていて気になります。どこか不安になるけれど惹きつけられ、どんどん話にのめりこみました。オカルト現象なのか科学技術なのかそれ以外なのか、ずっと分からないところが心憎い。 重厚や緻密という表現はあまり合いません。メディアワークス文庫らしく、ライトノベルよりは真面目ですが軽めの雰囲気です。学校を中心に教師と生徒が会話をする日常的な描写が、終盤の盛り上がりと対照的で後者をいっそう引き立てています。 それほど期待しないで読み始めたので、実に嬉しい誤算です。読み終わった後も、しばらくは死なない生徒についてあれこれ考えてみました。個性的で面白い物語だと思います。著者の他作品も読んでみたいです。 ネタばれや謎についてはつづきにて。
【ここからネタばれ】 死なない謎、あのベッシーシステムは本当に可能なんでしょうか。各々の感情を考慮しなければ、理論的には可能……なのかな?不老不死といえば理系の独壇場だと思っていたので、こうした文系的アプローチは新鮮で盲点でした。うまいこと考えたものです。 このベッシーシステムは、別にベッシーでなくても良いよね。行システムでも何でも。ま、識別が一番似合っているとは思いますけど。それっぽくて。 劇中の事件でシステムの構成要素が減ってしまったから、また増やすのでしょうか。数の弱点さえなんとかなれば、あの人の望む本物になるかもしれませんね。
【ネタばれここまで】
2012年03月15日(木)
評価〔B〕 軽く読める脳の本ですキーワード:医学、脳、神経科学、エッセイ風 ド忘れのときは、たしかに答えは出てこないけれども、その一方で正解が何かをちゃんと知っています。この矛盾構造、不思議だと思いませんか。(6章より抜粋)
テレビの教養番組ではすっかり御馴染みの脳科学ですが、最新の研究ではどのようなことを調べているのでしょうか。神経科学の研究者である著者が、脳について明らかにされたことやまだ解明されていないことについて、あれこれ考えた科学読み物です。 本書は、著者が寄稿していた連載エッセイが元となっていて、各章はそのエッセイと、エッセイの追加・補足説明で成り立っています。どの章も短く、内容も身近なものが多いので、手軽に気軽に読むことができます。長い時間が取れない人に適しているつくりです。 15章の睡眠は情報の整理するなど既知の話もありましたが、「変化盲」や記憶の仕組みの話は興味深かったです。アルコールは体レベルではストレス解消になっていない、は結構衝撃的でした。そんなことまで分かってしまうんですね。読み進めていくうちに、脳は凄いのか凄くないのか、よく分からなくなってきます。効率が良いということなんだろうな。それと、意思を決定する前から脳は動き始めている不思議な現象は知ってはいましたが、やはり面白いです。脳の解明に伴って、意識の謎も解き明かされるといいなあ。 ライターではなく専門家なので、掘り下げた内容を予想または期待していたのですが、これはこれで良い読み物だと感じました。新書よりも軽く読みやすいと思います。著者の文章は肩肘張ることなく楽観的なためか、読後感も良いですよ。
2012年03月09日(金)
評価〔B〕 吾朗の成長物語キーワード:ギャグ、兄弟姉妹、 「アタシはお姉ちゃんになれてたのかなー」(本文より抜粋)
日常系シスコン4コマもこの巻にて完結です。 姉・ハルが高校を卒業を向かえます。吾朗が卒業で終わりとならないところが、この作品らしいです。とはいえ、主役はやはり彼だったような気がします。タイトルが示しているように。ハルの弟ではなく吾朗のアネキなんです。ラストの中編「鬼灯さん家のアネキ」は良かったです。大ゴマが多くコマの使い方が雑っぽいですが。吾朗ちゃん立派。綺麗に終わったと思います。 登場人物たちの過去や人間関係の変化など、読者が期待しそうなものは特にありませんでした。今までどおりに進んで今までどおりにスパッと終わる。インパクトはありませんが、ダラダラと続くよりはずっと良いです。 シリーズとしての評価もBくらいかな。1巻の感想でも書いたけれど、血の繋がらない姉や弟を持つ人は(あまりいないか)、どう見るのかな。あ、そうそう、楓はなかなか家族思いだと思います。あれでも。あと、印象に残ったのは美咲です。メスブタ発言に笑ってしまった。笑える良いキャラでした。 次も4コマかどうか分かりませんが、面白い漫画を書いてくれることを願っています。
2012年03月06日(火)
評価〔C-〕 現代人と魔導師の戦いキーワード:魔法、現代、ファンタジー 「貴方の魔法は再演大系。……六十年前、使い手が途絶えて、滅亡したはずの魔術」(本文より抜粋)
現世の地球に墜とされた少女・鴉木メイゼルは、刑として科されたのは敵の魔導師を100人倒すこと。過酷な試練をどう乗り越えていくのか、現代における魔法バトルです。 ファンタジーの重要な要素である魔法は、科学技術あふれる現代と対極のような世界ですが、秀逸な設定によって違和感なく両者を融合させています。その設定とは、異世界の魔導師からすると、神のいない地球は<地獄>で、人類は魔法を五感で観測・認識すると、それを消滅させてしまう能力を持つ<悪鬼>であるということです。SFっぽい理論ですが、こうすることによって無理なく魔法を取り入れ、かつ人類を単なる弱者にしない点が独特で面白いです。魔法もいくつかの大系に分けられ、得手不得手があって個性があります。 しかし、文章そのものがかなり分かりにくいです。修飾語や目的語の語順のせいで混乱しやすく、省略によって意味が不明瞭になることもあるので、かなり読みづらさを感じました。Amazonのある書評で、「描写力が無いのか?あるいは読解力が無いのか?で悩む」とありますが、まさにそのような状態です。何回か読み返すか、描写をもっと増やすしかないんじゃないのかな。 現役小学生魔導師・メイゼルを始めとする人物が数多く登場しますが、一人を掘り下げる前に次の話・次の人物へ移るのでなかなか感情移入ができず、それに上記の設定が分かりにくいために、中盤あたりで読むのが苦痛になりました。キャラもあまり好きにならなかったですし。話も後半は明確になり、盛り上がるバトルもありましたが、前半の気分を引きずって読んだのであまり面白く感じませんでした。粗筋は奇をてらったものではなく、真っ直ぐな展開だと思います。 魔法の理論は面白そうですし、魔法と人類の仕組みも素晴らしいのですが……うーん、なんか合わなくて残念です。
2012年03月02日(金)
評価〔C+〕 戦闘兵器の人間物語キーワード:ファンタジー、兵器 「未登録のサヤビトがこの村にいる件について来たの」(本文より抜粋)
物質が心を持った話は他にもありますが、人間と変わらない姿で兵器というのはあまり聞いたことがありません。外見も中身もほとんど人間だけれど、アドと呼ばれる主人がいなければ生きていけないサヤビトたち。そんな彼らが平和な時をどう過ごしているのか、兵器として作られた人造人間たちの物語です。 舞台がファンタジー風で、まだ詳細は分かりませんが、中世ヨーロッパのような感じです。剣は出てきますが魔法は出てきません。サヤビト以外は普通の人たちが暮らしている世界。戦闘を思い起こさせる兵器としての存在は、あまり良く思われてません。でも、そんな中、実に人間らしく生きているサヤビトたちが、周囲の人間よりも人間くさくて良い感じです。人型兵器の話だからアクション重視なのかと思いきや、人間ドラマがテーマのようです。 シリアスになり過ぎないよう、明るいシーンとメリハリをつけているので、重くなりすぎてはいないと思います。どことなく少女漫画っぽい感じがします。ギャグっぽいシーンを見ていると、特に。それと、表紙の少女リヴィアは、本編ではもっと子供っぽい容姿です。読後改めて表紙を見て、ちょっと驚きました。 暗いトーンを使った心理描写は好みなのですが、どうもそれほど満足感はありませんでした。なぜかは自分でもよく分かりません。全体的に悪くはないのですが……んー、漫画の好みの問題なのかな。
2012年03月01日(木)
お伽草紙 (新潮文庫) 〔B〕マンガはなぜ規制されるのか 「有害」をめぐる半世紀の攻防 〔B〕鬼灯さん家のアネキ3 〔B+〕ヴァルプルギスの後悔〈Fire2.〉 〔C+〕ゼロ年代SF傑作選 〔B+〕銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) 〔S-〕罪と罰5(アクションコミックス) 〔B+〕銃・病原菌・鉄(下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) 〔A〕以上の8冊でした。ジャンルは片寄ることなく、思ったよりも漫画は読みませんでした。 2月にしてでた評価Sは、科学の読み物「銃・病原菌・鉄」の文庫版です。以前から評判が良いのは知っていたましたし、読んでみても納得しました。ページ数が多いのがやや難点ですが、やはり賞を取るだけのことはあるかなーと思います。相変わらず最先端の科学を紹介する本に弱いです。面白い。 ※ このまとめは、4月に入ってから書きました。3月の最初の感想をアップした時に、2月のまとめをアップしていないことに気がついたのですが、だらだらと先送りにしてしまいました。気がついたら、なるべく早くなおしておこう。 ※
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