2010年10月30日(土)

ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 

ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)
著者:田沼 靖一
出版:幻冬舎
発行:2010/07

評価〔A-〕 細胞死研究から見えてくるもの
キーワード:細胞、生物学、アポトーシス、死生観、

「死の科学」では、これまでは生きていることを「生」の視点からしか見てこなかったところに、まったく逆の「死」から見る、という発想の転換を起こしました。(まえがきより抜粋)


アポトーシスという言葉があります。ギリシャ語で「落ちる(falling)」と「離れる(off)」という意味で、細胞の死に方の一種、遺伝子によって支配された細胞の自死を指します。つまり、細胞にはプログラムされた死が存在するのです。題名のどうしては、なぜではなくどのようにしてを指しています。理由ではなくメカニズムのことです。その死の謎を調べることで分かってきた生物学と医療品開発の最先端を紹介し、さらに死の科学を踏まえた進化・性そして新たな死生観を述べています。

死や細胞など硬く難解そうな単語が数多く登場しますが、内容は読みやすく分かりやすく、まったく生物学を知らなくても読めるのではないでしょうか。アポトーシスやテロメア等の専門用語は既に知っていて衝撃的ではありませんでしたが、理解があやふやな点が多かったので、本書で改善されたのは良かったです。また、アポトーシス研究を難病の治療法に応用する試みや、ゲノム解析を利用した医薬品開発であるゲノム創薬は、最前線の研究者でなければ書けない事項です。アポトーシスの研究はまだ日が浅いし、ゲノム解析は利用が始まったばかりなんですね。素人でも知ることができるのが嬉しいです。

しかし、本書で強く関心を惹かれたのが第6章の「死の科学」が教えてくれること、です。遺伝子に組み込まれた死の存在から生命進化と性について考察し、最後は死の意味、著者の死生観を述べています。生物学から冷静に着実に論じていくので、冷たい感じはしますがなるほどと唸ってしまいます。なぜ死ぬのかという問いに対して、生きているから死ぬと答えをよく耳にしますけれど、その説明よりは科学的な意見な気がします。利他的な遺伝子は興味深いですね。

もう少しページ数を増やして終盤を充実させて欲しかったのですが、それは贅沢なのかな。アポトーシスを知らないで読んでいたら、凄く鮮烈で電撃的な本だったでしょう。評価Sくらい。でも、それを差し引いても、知的探究心を満たしてくれる面白い本でした。





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[ 2010/10/30 18:42 ] 自然科学・医学 | TB(0) | CM(0)

2010年10月24日(日)

マンホール1 

マンホール 1 (ヤングガンガンコミックス)マンホール 1 (ヤングガンガンコミックス)
著者:筒井 哲也
出版:スクウェア・エニックス
発行:2005/08/25

評価〔B〕 気味が悪い社会派ホラー
キーワード:ホラー、現代、SF、生物

「欲望を奪う寄生虫……か」(本文より抜粋)


とある商店街で一人の男が変死し、二人の刑事がこの出来事を追っていくのですが、捜査を続けるうちにただの事件ではないことに気づきます。このような作品はどの分野に含まれるのかなと疑問だったのですが、裏表紙によるとバイオホラーだそうです。

事件の中心となるのは、ある種の寄生虫です。ウイルスが発端となるドラマか漫画があると思うので、この寄生虫という題材も、それほど斬新で奇抜ではありません。しかし、後半を読み進めていくと、ただ単に出したのではないことが分かります。社会的な要素も絡めてあって、その点は意外で面白いです。恐怖よりも気持ち悪さが印象的。

冒頭は衝撃的で設定もしっかりしているので、安心して読むことができます。物語に入り込みやすいです。でも、どこかしら地味なのは仕方がないのでしょうか。捜査もの。なんかテレビドラマを見ているような気分になります。また、溝口刑事と井上刑事、ベテランと新人のコンビのやり取りもなかなか楽しいです。暗くなり過ぎないところが良いですね。

全3巻ですが、思いのほか、事件の裏が明らかになるのが早かったです。事件の謎を追っていくよりも、いかにして事件を解決に導くかのほうに、重点が置かれているのかもしれません。ゆっくりじっくり読んでいこうと思っています。






[ 2010/10/24 16:16 ] 漫画 | TB(0) | CM(0)

2010年10月22日(金)

サキ短編集 

サキ短編集 (新潮文庫)サキ短編集 (新潮文庫)
著者:サキ
出版社:新潮社
出版日:1958/02

評価〔B〕 オー・ヘンリの最大ライバル
キーワード:外国文学、近代、短編集

ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい。(裏表紙より抜粋)


欧米においてはO・ヘンリと並ぶ短編の名手として有名なサキ(本名ヘクター・ヒュー・マンロー)の短編集です。彼は19世紀後半から20世紀初めを生きた、ミャンマー生まれのスコットランド人で、ブラックユーモアが得意。ジョークと言えば、以前英語を教わった英国人教師が、いつもジョークばかり言っていたを思い出しました。あんな感じなのかな、と思いつつ読んでみることにしました。ちなみに、文字が大きくなって読みやすくなった改版です。

訳者が135編の短編から、日本のSFやホラーに影響を与えた「開いた窓」や「おせっかい」を含む代表的な21編が収録されています。読んでいて思ったことは、どこか読みにくい、です。僕の理解力が足りないのか、原文が修飾が多く分かりにくいのか、はたまた訳文が教科書的で読みにくいのか、物語がすんなり頭に入ってこないことがありました。昔の海外の小説は、皆、こんな感じなんでしょうか。

一言で今までの物語をひっくり返す手腕は、さすがだと感じました。落ちは皮肉や諷刺が効いていたり、不条理で冷酷だったりと痛烈です。結末が酷いなと思うこともある反面、現実はこんなもんだと思うこともあり、複雑な心境になります。明るく楽しくではなく、シニカルで読者を出し抜く一筋縄ではいかない類のユーモアです。印象的だったのは、「話上手」「七番目の若鶏」「休養」「家庭」かな。

これらの短編の影響を受けた日本の作品を先に読んでいるので、構成の新鮮さはあまりありませんでしたが、内容は独特でした。ハッピーエンドが好きな人には薦められませんが、捻ったユーモアが好きな人には合いそうです。





[ 2010/10/22 21:24 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2010年10月16日(土)

スキエンティア 

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
著者:戸田 誠二
出版:小学館
発行:2010/01/29

評価〔A-〕 地味で上手な人間ドラマ
キーワード:人生、オムニバス、SF風、現代

頼むよ、科学の神さま。(第2話より抜粋)


あることがきっかけで人生が変わっていく人たちのヒューマンドラマ短編集です。裏表紙のあとがきにもあるように、そのきっかけは科学の力で出来た様々なもの。スキエンティア・タワーと呼ばれる高層建築がある街が舞台となり、惚れ薬やクローン等が登場するので、SF漫画のような感じですが、今までの作品同様やっぱり核となるのは人の生き方そのものです。

登場人物たちの設定は、大きな悩みを抱えていたりや生きることに疲れていたりと、なんらかの形で辛い境遇です。しかし、ふとしたことがきっかけとなって、懸命に生きようと思い生きていく、厳しくて辛いが暖かいエピソードとなっています。人生の希望を示してくれるような、そんな感じ。この作者はいつもながら人生を描くのが上手いなあと思います。読むたびに自分の人生について考えてしまいます。

失礼ながら絵が上手いわけではありませんが、話は読む人をひきつけるものがあります。派手さはないんですが、地味に光るものがあるとでも言うのかな。内容も絵と同様派手な人はいないかな。良くあると言えばそれまでですが、地道で現実味のある普通の人だと思います。でも、そこが良いんだよね。

久しぶりに読んだ戸田誠二ですが、以前と変わらず期待通りの出来で良かったです。「生きるススメ」や「説得ゲーム」等の昔の作品を読みかえしてみたくなりました。本棚を漁ってみよう。





[ 2010/10/16 19:12 ] 漫画 | TB(0) | CM(0)

2010年10月14日(木)

感じない男 

感じない男 (ちくま新書)感じない男 (ちくま新書)
著者:森岡 正博
出版:筑摩書房
発行:2005/02/08

評価〔B+〕 勇気あるセクシュアリティ論
キーワード:性科学、男性、セクシュアリティ、

この章では、日頃から考えているひとつのテーマを考えてみたい。私はなぜミニスカートに欲情する(エッチな気分になる)のかという問題である。(第一章より抜粋)


上記の抜粋をどこにしようか迷ってしまったくらい、題名よりも刺激的で踏み込んだ内容です。生命学を研究している学者である著者が、一般論ではなく自分の体験に基づき、自分のこととして男の性に関する考えを書いています。

「男性は不感症である」という意見を論じ、その心の構造を考察しているのですが、著者の性的嗜好や性の体験から始めるので、なんというか強烈です。他の本のように「男とは」ではなく、「私は」で論じているので、かなり生々しい……。自分の性についての感じ方・考え方(セクシャリティ)として、ミニスカート、学校制服、ロリコンを取り上げています。また、射精の快感や射精後の心情にも触れています。ネットで見かけるような、自虐的で笑いをとるような告白とは違って、なぜそういう気分になるのかと冷静に述べていくところは、なんか凄い。上手く表現できませんけど。

大変興味深いのですが、著者の仮説に全面的には賛同しません。精神分析や解釈は面白いけれど、本当にそうかなあと思うところもありました。あくまで彼にとっての真実なので、どれくらい賛同者がいるのか正直分かりません。腑に落ちない人にとっては、エッセイと捉えるかもしれません。ただ、これが性科学の新しい視点となり、男性の性についての議論が活性になったり、各々の性行動の変化へと繋がる可能性はあるかも、と感じました。

セクシャリティ論なんて書いてあると難しそうですが、思ったよりも読みやすかったです。読んだ後に、自分のセクシャリティについて考えてみてはいかがでしょうか。この本、当初女性読者を想定して書かれたみたいですが、女性はどんな感想を持つんでしょうね。性別に関係なく興味深いと思いますよ。




[ 2010/10/14 22:38 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2010年10月07日(木)

田宮模型の仕事 

田宮模型の仕事 (文春文庫)田宮模型の仕事 (文春文庫)
著者:田宮 俊作
出版:文藝春秋
発行:2000/05

評価〔A-〕 突き抜けた模型愛の仕事人
キーワード:自叙伝、模型、プラモデル、仕事、

私がまったく休憩をとらないので、彼らは信じられないという顔をしていました。でも、私は好きでやっていることなので、いっこうに疲れを感じません。むしろ撮影は、好きな戦車に接して楽しんでいるという気持ちだったのです。(第四章より抜粋)


模型やプラモデルの愛好家ならば知らない人はいないであろう有名な企業・タミヤの社長が書いた自叙伝です。名前は知らなくとも、おもちゃ屋やおもちゃ売り場に行けば目にする、赤と青を背景とした白星2つのマークは見覚えがあるのではないでしょうか。プラモデルが趣味である僕の某血縁者が、「外国メーカーのプラモはパーツが合わないことがある、でも、タミヤのならばぴったり合う」みたいなことを言っていたのを思い出します。そんなタミヤの歴史とともに彼の半生が綴られています。

地方の一模型メーカーの田宮模型から、世界一の品質を誇る(株)タミヤに成長するまでの、様々な苦労や困難が書かれていますが、著者がはりきって仕事をしているのでむしろ楽しんでいるように見えます。ある取材では、監視員がいなくなったのを見計らっては、目当ての戦車の上にのっては車体上部を撮影し、また、ある開発研究では、仕組みを知りたいがために高級車ポルシェを買って全部分解してしまいます。やり過ぎだと笑ってしまいましたが、こうした飽くなき探究心が並々ならぬ情熱と結びつき、今のタミヤの品質を人気を生み出しているんだと痛感しました。自分の仕事を天職だと書いているのが良く分かります。彼は企画者も設計者も皆模型が好きだと言っていますが、1番模型を愛しているのは彼でしょう。趣味は仕事にしないほうが良いと主張する人もいますが、ここまで好きならそんなことはないのかもしれません。

加えて、商品開発のアイディアの出し方や手間隙かけた現物の取材、そして顧客の満足度に配慮した設計と、その仕事振りは素晴らしいです。プロジェクトXのような面白さかもね。メーカーとしての企業の在り方、社会人の仕事に対する姿勢は参考になり、学ぶことが多いと思います。著者は、情熱・知識・向上心・行動力・経験と、どれもどの社員よりも上回っていそうなところが凄いです。

終章には、取引相手のデビッド・ビンガーが著者へ送った手紙が収録されていて、客観性も加わって厚みが増しています。模型ファンならば是非読んで欲しい本ですね。僕のように模型愛好家でない人でも、十分楽しめる一冊です。




[ 2010/10/07 21:48 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2010年10月06日(水)

TISTA1 

TISTA 1 (ジャンプコミックス)TISTA 1 (ジャンプコミックス)
著者:遠藤 達哉
出版:集英社
発行:2008/06/04

評価〔B〕 若い暗殺者の苦悩
キーワード:暗殺者、殺し屋、外国、現代、

「私には、それしか無いの…」(本文より抜粋)


誰も姿を見たことがない“シスター・ミリティア”と呼ばれる暗殺者、ティスタ・ロウンの運命を追います。少年誌で人気がありそうな、今時で軽めのデフォルメされた絵で、僕自身最近は手に取らなかったタイプの画風なだけになんか新鮮です。

まだ若く大学生であるティスタは、芸術学部の学生アーティと知り合います。彼女は彼から影響を受け、殺しについて悩んでいくその様は、ポップな絵柄に反して内容は重く暗いです。明るいシーンがない訳ではありませんが、主役のティスタが暗いのでどうも重くなりがち。設定は斬新とは言えませんが、なにやら秘密のありそうな彼女の目や、父親が生きていた頃についてはまだ謎で、興味を引かれます。

絵柄は軽めと書きましたが、写実的ではないという意味で、漫画としては上手いと思います。ひとりひとり描き分けたり、大胆に構図をとってみたりしている点で。また、劇中の世界観もしっかりしていて完成度が高いと思います。きっちり出来上がっている感じ。

この漫画は全2巻で、次で終わりなのは知っていましたが、もう少しじっくり進めて欲しかったかな。既に2巻は手元にあるので、すっきりとした結末になることを期待して読んでみます。




[ 2010/10/06 17:20 ] 漫画 | TB(0) | CM(0)

2010年10月01日(金)

2010年9月の読書メモ 

エンマ7〔B+〕
反貧困―「すべり台社会」からの脱出〔A〕
論語 (ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)〔B+〕
黄昏乙女×アムネジア1〔B〕
紫色のクオリア〔A〕
さがしもの〔B〕

以上、6冊でした。もう一冊読もうかと思っていたのですが、月末になるにつれ段々と時間に余裕がなくなってしまって読めませんでした。いや、仮に読めてたとしても、感想は書けなかったと思います。先月に続いて評価C以下はありませんでした。良い感じ。

新書が少なくなっているので、もう少し新書を増やしたいのですが、なかなかピンと来るものが見つかりません。古い新書(なんか変な言葉だ)もあたってみようかな。



[ 2010/10/01 22:15 ] 月別まとめ | TB(0) | CM(0)