FC2ブログ







2008年01月22日(火)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)
著者:桜庭一樹
絵  :むー
出版:富士見書房
発行:2004/11

評価〔C〕 一般向けの単行本もあるよ
キーワード:シリアス・青春

「彼女はさしずめ、あれだね。“砂糖菓子の弾丸”だね」(本文より抜粋)


第138回直木賞受賞記念という訳ではありませんが、少し前から興味のあった桜庭一樹の本を読みました。今回が初めてなのでどの作品にしようか迷ったのですが、タイトルだけは何度も目にしていたこの作品にしました。

田舎に住む中学2年のさめた感じの少女・山田なぎさと、都会からなぎさのクラスに転入してきた変な少女・海野藻屑。なぎさは彼女の家庭環境のせいか、少しでも早く“実弾”が欲しいと思っていますが、藻屑は“砂糖菓子の弾丸”を周囲に撃ってばかり。この13歳の2人を中心に物語は進んでいきます。表題にもある“砂糖菓子の弾丸”とは、何かを変える力をまったく持たない甘い嘘、言い訳、現実逃避のたとえです。なぎさの好む現実に影響力を持つ力、“実弾”とは逆のもの。子供はどうあっても実弾は撃てません。大人になってからは忘れがちですが力がないのです。そのあたりがテーマの、可愛らしい表紙からは想像できないほど重々しい話です。(それにしても、この話を読んでいて予想よりも没頭しなかったのは、歳をとったからなのかなーとちょっとガッカリ)

この“実弾”と“砂糖菓子”は2人の考え方の違いをうまく表現し、かつ物語ともよく合っている言葉だと思います。そのなぎさの切望してやまない実弾ですが、大人になった身としては、それだけで生きていくのは難しいと感じています。実弾ももちろん大切ですが、嘘を楽しむ余裕や一時的な現実逃避も必要なのではとも思うのです。未だに砂糖菓子の弾丸を撃っている身としては、考えさせられます。

また、なぎさが兄を貴族と呼ぶのもなかなか。言葉を選ぶセンスが光ります。これらの言葉と、藻屑がペットボトルのミネラルウォーターを飲むシーンが印象的でした。あの間がいいです。なんか心に残ります。

【ここからネタばれ】
冒頭の新聞記事と、藻屑の「私は人魚」発言は本当なのかどうか判断がつかないまま読んでいました。前者は鉈のシーンでも藻屑の結末をはっきり言っていたのだけど、やはり初めから結末を明かすとは信じがたかったのです。物語の現実?は厳しい。後者は、この本がライトノベルだと考えると、本物の人魚でもありかなと思っていました。ラノベでなければ、甘い嘘かとあっさり流していたのですが。

なぎさが雅愛に対して「魂はお金のことなんかで真実を曲げたりしないのだ」と、藻屑のために行動で示すのが凛々しくて格好いい。事件の後、なぎさがミネラルウォーターを飲んでみるのも、なんともいえず物悲しくて良かったです。再読すると、藻屑がどのような気持ちで喋っているのかを推し量りつつ読めるので、1回しか読んでいない人は是非。

【ネタばれここまで】

この本は富士見ミステリー文庫から出ていますが、推理小説のような謎はほとんどありません。そうしたものを期待するとがっかりします。また、なぎさの一人称で話が進むので、他の人物が何故そうしたのかが説明されていないところがあり、伏線を全て回収するような練りに練った構想が好みの人には向きません。好き嫌いがはっきり分かれる小説だと思います。

しかし、物語を分析するのではなく、2人の心境の変化を感じとるように読めば、とても心に響く話だと思います。子供と大人で感想は違ってくると思うけど、どちらにせよ面白かったの一言で終わらないはず。桜庭一樹の他の作品も読んでみたいです。


スポンサーサイト
[ 2008/01/22 22:52 ] ライトノベル | TB(0) | CM(0)