 
| 著者:角川書店 (編集) 発売日: 2001/7/1
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評価〔B-〕 意外と堅苦しくないです。キーワード:古典、俳句、俳諧、詩歌、旅行記、江戸時代、
夏草や兵どもが夢の跡(本文より抜粋)
多くの人が俳句といえば松尾芭蕉、芭蕉といえば奥の細道を連想するであろう有名な作品です。学校で勉強したはずですが、東北地方を旅したくらいしか覚えていませんでした。
芸術関係の本なので、歌集のようにある程度知識がないと楽しめないのかなと危惧していましたけど、万葉集や古今和歌集のように歌だけではなく、風変わりな旅行記を読んでいるようで予想よりもずっと分かりやすかったです。現代語訳も説明が多すぎることもなく違和感がないのが良いです。
あの有名な「松島やああ松島や松島や」は芭蕉の句でなく、近代に作られたもので無縁の駄句と書かれていて驚きました。確かに単純すぎないかとは思っていたのですが・・・・・・。では芭蕉はどんな句を詠んだかというと、絶句して詠めなかったそうです。よっぽど荘厳な景色だったのでしょう。
また、「閑かさや 岩にしみいる 蝉の声」が山形県山寺とは知りませんでしたし、「庭掃きて 出でばや寺に 散る柳」は偉人の人間味あふれる側面が見えて興味深かったです。実際に芭蕉がたどった土地や名所を訪ねてみるのも、面白いかもしれません。
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| 著者:百田 尚樹 発売日: 2015/8/12
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評価〔B+〕 この本は炎上してないみたいです。キーワード:放言、批判、炎上、反論、
どこからも突っ込まれない意見や、誰からも文句の出ない考えというものは、実は何も言っていないのと同じだ。(まえがきより抜粋)
失礼ながら著者はなんだか喋るたびに炎上している印象があります。有名な小説の作家ということ以外よく知らず、具体的にはどのようなことを言っているのかほとんど知りませんでした。
実際に著者の意見や非難に対する反論を読んでみると、自分とは異なる意見のものもありますが、概ね理解できる意見です。炎上が頻発するほど過激にはあまり感じません。メディアが発言の一部のみ抜粋するので、真意やニュアンスが本来のものとは異なって伝わることが多いようです。
他人の目は正しい、超少数意見は厳しいようだけど無視していい、国会のヤジは問題ないのか?、あたりが読んだ後も印象に残りました。特に、最初の放言は、本心を出さずに生きてきた人は出さずにいる姿が本当の姿と続き、説得力のある内容です。
放言を問題発言だとむやみに騒ぎ立てずに、その真意を読み取ることが大切です。本人の反論もきちんと聞くべきですね。言葉狩りが横行することのないような社会を望みます。
 
| 著者:紀 貫之、 西山 秀人 発売日: 2007/8/1
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評価〔C〕 昔の記録としては貴重ですが。キーワード:随筆、古典、旅行記、国司、
三十日。雨風吹かず。「海賊は夜歩きせざなり」と聞きて、夜中ばかりに船を出だして、阿波の水門を渡る。(本文より抜粋)
男もすなる日記といふものを、の出だしで有名な紀貫之の作品です。日記ですが旅行記、紀行文の要素が強い文章で、現代では平安時代の船旅がどのようなものであるかを知る重要な資料となっています。
また男性が普段使う漢文ではなく、女性が使うひらがなで書くことによって、日記をいつもとは違う視点や感性で描こうと挑戦しているのが大きな特徴です。ネットで男性が女性のふりをするネカマと一緒です。もしかしたら土佐の国司という高い身分を、一時的にでも忘れてみたかったのかもしれませんね。
内容はというと、日記なのに一人で物思いにふける場面は少なく、登場人物たちが様々な場面で感情を表現するために和歌を詠んでばかりです。船が出港できなければ嘆きの歌、夜の月を見れば優雅な歌を詠みます。まるで物語つきの歌集のようでした。もっと旅行記のならではの珍しいものを見た的な記述を期待していたので、正直なところ残念でした。ただ、昔の船は速度がでないばかりか、出港することさえ思いどおりにならなかったのだなと、当時の人々の苦労は少しだけ分かりました。
和歌が好きで昔の歌集の知識があれば、かなり面白い旅行記だと思います。
 
| 著者:鈴木 大介 発売日: 2016/6/16
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評価〔B+〕 脳梗塞の人を知らなかったら評価A。キーワード:闘病記、脳梗塞、リハビリ、
ともあれ、しゃべれない、指も動かない、視界はグニャグニャ。どうやら歩行には支障がないようだが、確実にこれは脳のトラブルだ。(第1章より抜粋)
現役のフリー記者が脳梗塞を患い、体験したことを分かりやすく伝える闘病ドキュメンタリーです。
文章のプロが綴っているだけあって、事細かに丁寧に書かれています。脳の病気になって性格が変わってしまったという話はときどき聞きますが、著者によると注意力や意識、感情の制御がうまくいかないためにそう見えるそうです。リハビリはくじであるという比喩は分かりやすく興味深かった。なかなか理解しづらい患者の内面が、前よりは分かった気がします。
恥も外聞もなく正直に思った事や知られたくないであろうことも語っていて、さらには病気の原因についても生活習慣を反省し、改善しようと今もなお試みているのが立派です。食事と運動に気をつけていてもなってしまうのが怖い。元アスリートは危険なのも意外でした。
私は脳梗塞の患者を知っているので、ああこんな感じだよねと割とすんなり読めましたけど、周囲に患者がいなかった人にとっては知らないことばかりかもしれません。脳梗塞を理解する助けとなる闘病記でした。予防のために読むのもよさそうです。
 
| 編集:角川書店 発売日: 2001/11/1
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評価〔B-〕 結構変化に富んでいます。キーワード:古典、詩歌、奈良時代、
川の上の つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨瀬の春野は(本文より抜粋)
日本最古の歌集、万葉集の入門書です。全二十巻、4500余首ある中から選び抜いた約140首を紹介しています。古今和歌集など他の歌集と違い、素朴で率直な力強い歌が特徴です。
自然の美しさや故郷への想いを綴ったものが多いと思っていたのですが、恋愛や夫婦愛、死者を悼むものなど変化に富んでいます。中でも恋愛はもっと時代が下ってから流行したと思っていたので、ちょっと驚きました。隣町でも移動するのには苦労したであろう時代だからこそ、人への思いがよりいっそう高まり歌にしたくなるのもかもしれません。
専門用語も出てきますが、コラムで簡単に説明がありますので心配ありません。枕詞はもちろん、相聞、挽歌、序詞などひととおり解説があります。昔、学校で習った記憶がありますが、あまり覚えていないのでこうしたコラムはありがたいです。
聞いたことのある歌や印象に残った歌を引用してみます。
田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける
憶良らは 今はまからむ 子泣くらむ それその母も 我を待つらむぞ
賢しみと 物言うよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし
世間を 何にたとえむ 朝開き 漕ぎ去にし船の 跡なきごとし
防人に 行くは誰が背と 問う人を 見るが羨しさ 物思いもせず
「世間は~」は僧が詠んだ哲学的な歌ですが、いつの世もあまり変わらないなと本当に思います。毎度のことですが、古典を読むと人間は千年くらいでは本質的に変わらないなと思うばかりです。昔の人に親近感を覚えます。
解説は分かりやすいのですが、読んでみて詩歌を楽しむ能力が低いことを実感しました。年を取り素養を身につければ違ってくるのかもしれませんね。