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2020年07月04日(土)

獺祭 この国を動かした酒 



著者:勝谷 誠彦
発売日: 2016/12/24

評価〔B〕 少々の自慢話はよしとしましょう。
キーワード:日本酒、蔵元、酒米、ルポルタージュ、新書化

ものまねである。しかし桜井は経験ではなく理論に基づいたものまねをすることがどんなに大切かを知った。(第二章より抜粋)


獺祭は初めて日本酒を美味しいと思ったお酒です。それ以降少しではありますが日本酒を嗜むようになりました。今では有名な酒となりフランスのレストランでも扱われているという獺祭が、どのようにして生まれ成長していったかを旭酒造の会長・桜井氏を軸に綴っています。本書は西日本出版社から刊行した「獺祭 ─天翔ける日の本の酒」を新書化したものです。

今まで作ってきた旭富士とは異なる新しいブラント名を「獺祭」と決めたくだりが興味深いです。いっそ読めない漢字を銘柄にするその決断力は凄いです。覚えやすいというセオリーを無視していてどこか清々しいです。

また、単に新しい味を開発して成功したのではなく、杜氏の閉鎖性、酒造会社と問屋の関係など昔ながらの習慣に抵抗し打ち破りながら現時点に至ったことがよく分かります。そうした姿勢や実績が一年中酒造りをする画期的な四季醸造を生んだのでしょう。酒米不足の時も持ち前の行動力で解決するのは見事でした。

旭酒造のみならず日本酒業界が再び元気になってきた理由の考察は説得力があります。近年まで伝統の手法を大切にし過ぎた弊害でしょう。時代の流れかなと感慨にふけってしまいました。

テレビでよく見ていた人で最近見ないなと思っていたのですが、2018年に亡くなっていたのですね。知りませんでした。こうした人を前向きな気持ちにさせる本を書いていたとは惜しいです。


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[ 2020/07/04 10:26 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2020年06月24日(水)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 



著者:井出明
発売日: 2018/7/30

評価〔B〕 心に余裕がある時に行きたいです。
キーワード:ダークツーリズム、旅行、歴史、負の遺産、

勉強や学びなどという言葉を大上段に振りかざさなくとも、悲しみの場に赴き、そのこで過ごすのであれば、心に何かが沁み始める。(本文より抜粋)


ダークツーリズムは人類の悲劇の地を巡る旅を指します。悲劇とは戦争に限らず、天災や公害なども含まれるそうです。本書では日本におけるダークリーリズムの第一人者である著者が、この新たな旅の形を紹介します。考察や分析よりも紹介を重視し、著者が実際に行ってきた体験談が中心となっています。紀行文です。

視野が広がり新しい経験をすることは基本的に良いことです。しかし、観光地のイメージを考えると日本ではダークツーリズムの人気が出るとはあまり思えません。旅といえば楽しく明るいものとして宣伝しているので、歴史を学んだり気分が沈むような体験は固いし敬遠されるのではないでしょうか。かといってないほうがいいわけでもなく、興味を持った人が見てその良さを知ってもらえば徐々に広まっていくでしょう。また、普通の観光と組み合わせた、例えばグルメとダークツーリズムが混ざった旅ならば十分受け入れてもらえそうですし学ぶ機会のある有意義なものとなりそうです。

章の最後に旅のコツとして「旅のテクニック」が記載されているのがよいです。旅慣れていない人も旅に出られそう。読んでいて興味を持ったのは網走監獄でしょうか。時代を反映した刑務所が実際どのような場所だったのか見てみたくなりました。監獄食を食べられるのも興味深いです。囚人労働の模擬体験は凄いですね。

昔、長崎に一人旅をしたときに原爆資料館と平和公園を訪れたことがあります。歴史に強い思いがあったのではなく単にふらっと行ってみたのですが、暑い日だったせいか色々と感慨にふけってしまいました。私は知らず知らずのうちにダークツーリズムを体験していたようです。気分はどうだったかというとずっと落ち込むことはなく、その後の観光も楽しめました。



[ 2020/06/24 21:28 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2020年06月05日(金)

世界一非常識な日本国憲法 



著者:長尾 一紘
発売日: 2017/9/2

評価〔B+〕 非武装中立には反対かな。
キーワード:憲法、改正、違憲、自衛隊、外国人参政権、天皇

政治意識の点では、「非武装中立」などと言っているようでは、せいぜい中進国ではないでしょうか。(エピローグより抜粋)


最近、憲法改正についてニュースなどで耳にします。どう改正するのかの前に、まず改正するのか否かを議論している最中なのでしょうが、まったく議論しないよりはずっと良いと思っています。マスコミでは自衛隊と9条のことばかり取り上げていますけど、他の部分はどうなのかちょっと興味があり手に取りました。

日本の憲法学は宮沢俊義なる人物の影響が大きく、現在でも宮沢憲法学と呼ばれ憲法学説の多数派として存在しているとは知りませんでした。反天皇、反自衛隊、反国家を主としたものです。著者とはまったく意見が異なり本書では一貫して批判しています。断言することが多く話に熱がこもってますが、それだけ熱心なのでしょう。「真理を追究するのではなく信仰に取りつかれた人々」とは言い得て妙なのかも。

憲法の成り立ちや明治憲法との関係は専門的でやや難しいですが、後半の自衛隊や皇室、外国人参政権はマスコミを通して多少知っていたのでよく理解できました。テレビで言ったら議論が長くなりそうなものも断言して短く終わらせているのが潔いです。女性宮家と旧宮家の件は納得です。よく聞くけれど理解が曖昧な「君主」「元首」の違いも書かれているのも良かったです。

9条は著者の改正案が妥当だと思います。世界の常識とも照らし合わせて国民の不利益にならないものにすべきだと感じました。



[ 2020/06/05 21:41 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2020年05月22日(金)

ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から 



著者:三井 誠
発売日: 2019/5/21

評価〔B+〕 実物大のノアの方舟があるとは驚き。
キーワード:科学、宗教、政治、論理的、アメリカ、

温暖化を疑う姿勢は、その人の「知識のあるなし」に由来するのではなく、その人の「思い」から生まれているのだ。(第1章より抜粋)


科学分野でのアメリカといえば、NASAなどを見ても明らかなように世界の最先端を走っているイメージがあります。しかし、進化論を否定し人工妊娠中絶を許さない、科学よりも宗教を重んじる人々が少なくないというニュースも時々耳にします。また、科学に対する不信も深まっているそうです。なぜ科学を信じないのか、科学を専門とする記者が全米各地で生の声を聞いたノンフィクションです。

知識がないから科学者の研究結果を信じないと考えるのは著者も指摘していたように間違いで、結局人は見たいものを見て信じたいものを信じるということなのでしょう。私もネットで自分の反対意見の記事を読もうとはあまり思いません。本書ではその理由として宗教と政治に注目しています。宗教と科学が反発するのは分かります。政治とも合わないことがあるのは驚きでした。政治、政治と言っていますけど、正確には経済的な理由や反エリート主義だと思います。

問題点の列挙だけでなく、科学者たちの反科学に対する取り組みまで調べているのは良かったです。ただ知識を伝えるのではなく、アリストテレスの論理・信頼・共感の3要素をおろそかにせず相手に伝えることが大切なのは賛成です。話はよく分からないけれどあの人の言うことなら信じよう、なんてことは珍しくないですからね。

アメリカの取材だけで『人は科学が苦手』と言えるのかは疑問ですが、反科学の人々を理解するのに有益です。



[ 2020/05/22 20:52 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2020年05月22日(金)

もっと言ってはいけない 



著者:橘 玲
発売日: 2019/1/17

評価〔A〕 問題点を間違わないように。
キーワード:社会学、遺伝学、先天的、進化、脳科学、

もしひとびとの素朴な常識が正しいなら、成長につれて一卵性双生児の類似性は下がっていくはずだが、実際には逆に高まっていくのだ。(2、一般知能と人種差別より抜粋)


受け入れがたい冷酷な真実を数々の実験やデータから明らかにしています。本書は前作「言ってはいけない」の続編ですが、こちらだけ読んでも理解できます。ただ、本書のほうが知能と遺伝と進化に絞って前作よりも論じる範囲を狭めているので、少し読む人を選ぶかもしれません。

タブーとされる知能や人種間の違いについても遠慮せずに書いているのが特徴です。読みながらツイッターなどで発言したら大いに話題になりそうな意見が多かったです。データに基づく結論は刺激的で説得力のあるものでした。著者の個人的な意見に対しては自分の意見とは違うなと思うことが時々ありましたが。

引用した上記の「知能に及ぼす遺伝の影響は年齢とともに増加」をはじめ、「同性愛が残った理由」「遺伝子から分かったサピエンスの移動」「アメリカで成功している高知能集団」「東アジア人は幼形成熟説」など興味深いものが多く読みごたえがありました。同性愛の項目では、男性の同性愛者は一見子孫を残すのに役に立っていないようにみえるけれど、彼らは男性を引き付ける魅力があり彼らの女性の血縁者も同様に男性に対して性的魅力を持つので、結果として自分に近い遺伝子を残す機会に恵まれると説明していて疑問は残りますが面白かったです。

また3章にある、犬種の違いを論じても差別ではないのに人種の違いについては否定される、は斬新で新鮮な意見でした。反発する人は出てくるでしょう。しかし研究は進んでいて、遺伝的には東アジア人とヨーロッパ人の差よりもタンザニア北部の人と西アフリカの人の差のほうが大きいことが明らかになっています。アフリカ内でそれだけ差があるなら一言で黒人と呼ぶには大雑把過ぎます。集団の特性を論じるべきか、論じるならどこで集団を区切るのか。難しいですね。

研究や実験によって自分には不愉快な結論が導かれても認めるのが公平であると考えます。問題をタブーとせず、何がダメなのかどこが不公平なのかを議論していく姿勢が大切なのではないでしょうか。



[ 2020/05/22 20:50 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)