2016年01月03日(日)

0歳児がことばを獲得するとき―行動学からのアプローチ 



著者:正高 信男
発売日: 1993/06

評価〔A-〕 行動学って観察が大変そうです。
キーワード:新生児、ことば、声がわり、クーイング、母親語、

赤ちゃんは高さのより高い音によって、より強く注意を喚起されるのだと考えられる。これはヒトの乳児に、生まれながらに備わっている感覚器官としての聴覚の性質であるらしい。(第五章より抜粋)


生まれたばかりの新生児がどのようにして言葉を習得していくのかを、行動学の視点から研究・考察した本です。外国語を習得する過程などは研究成果がある程度でているようですが、言葉を知らない赤ちゃんがいかにして言葉を理解していくのか、その初期段階に注目した珍しい新書だと感じました。

周囲の大人やテレビの音などを真似しているうちに喋れるようになる、とボンヤリ思っていたのですが、実は様々な段階を経て成長しているのが分かります。授乳のタイミングやおうむ返しなども目を引きますが、特に印象に残ったのは文脈のメロディーについてです。話している内容よりも、相手が何を伝えたいのか感情表現を重要視して意思疎通をしているのが興味深いです。外国人と話していてまったく理解できなくても、困っているか感謝しているかくらいは分かるのと似ていると思いました。内容よりも伝える意欲や意思が大切です。

また、新生児ののどの形態を声がわりと結び付け、行動学だけでなく生物学・解剖学の見地からも考察をしていて面白いです。声を出しながら物を食べることができる動物がいることは知っていましたが、新生児もそれに似たのどを持つとは驚きです。それと、言語獲得の過程が日本人・日本語だけの特性かどうか確認するために、外国の研究者と共同実験をしているのも良いですね。

あくまで0歳児の話なので、言葉をきちんと理解し発音するところまではたどり着きませんけど、初期段階の学習の仕方が分かってきただけでも凄いと思います。相手に質問できず回答も得られないのに、ここまで分かったのですから。結構かたい内容ですが、親になる大人には役立つかもしれません。




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[ 2016/01/03 21:00 ] 言語 | TB(0) | CM(0)

2013年11月09日(土)

女ことばと日本語 

女ことばと日本語 (岩波新書)女ことばと日本語 (岩波新書)
著者:中村 桃子
出版:岩波書店
発行:2012/08/22

評価〔B〕 言葉と社会の関係を探求します。
キーワード:日本語、女ことば、社会、政治、

当時の女子学生はさまざまな言葉を使っており、その中には書生言葉も、「てよだわ」言葉も、英語も漢語もありました。(本文より抜粋)


現代では女性らしい言葉使い、すなわち女ことばは当たりまえのように存在していますが、これらはいつからあったのでしょうか。日本語が話し始めた頃なのか、それともある時期を境に増え始めたのか、その歴史を知っている人はほとんどいないと思います。よくある言葉づかいやマナー本のように具体的な使用法ではなく、その存在理由と意義について考察していきます。

女ことばの成り立ちがいかに社会の影響を受けているのかが分かります。日本社会が女性に求めてきたものやその時代の政府に都合の良いものが、女ことばに色濃く反映されていて少々意外でした。方言に近いのかなと思っていたので。今からは想像しがたい男女の区別もしくは差別があったのが分かります。

また、男ことばとは何なのかと逆から考えてみると、色々見えてきて面白いです。明治政府の標準語を定めるに当たって、どの話し言葉を採用するかを決める逸話が興味深いです。そのあとに続く、てよだわ言葉から女学生ことばへの変遷も重要でなるほどと思ってしまいました。

当時の資料を挙げ説明してあるのでためになるのですが、社会だけでなく政治や思想も絡んできて、予想していたよりもずっと深く重いテーマなのだなと感じました。読んでいるとまだ資料が十分でないところもありそうで、今後の研究によりさらなる発見が期待できそうです。







[ 2013/11/09 18:13 ] 言語 | TB(0) | CM(0)

2013年10月03日(木)

日本語は「空気」が決める 社会言語学入門 

日本語は「空気」が決める 社会言語学入門 (光文社新書)日本語は「空気」が決める 社会言語学入門 (光文社新書)
著者:石黒 圭
出版:光文社
発行:2013/05/17

評価〔B〕 言葉の適切さを研究する学問です
キーワード:言語、話し言葉、言葉づかい、

社会言語学の立場からすると、「正しい敬語」は存在しません。あるのは「ふさわしい敬語」だけです。(本文より抜粋)


社会言語学という分野があるのを本書を読むまで知りませんでした。言語学と聞くと品詞や動詞の活用、古語を研究しているイメージですが、社会言語学は仕組みそのものではなく実際に話されている生の言葉を研究する身近な学問です。

話し言葉や言葉づかいは話す相手によってを変わるのは当然ですが、話し手の立場や年齢、話題の内容、会話の場所・状況などによっても変わるのを分かりやすく説明しています。興味深いのは地域方言の効果で、キリスト教の一説を大阪弁に翻訳した文章を読むと、同じ内容でも言葉によっていかに印象が変わるのかが実感できて面白いです。また、日本語の特徴である人称表現の多さについても解説されていて、日本の社会が年齢を重視してきたかが分かります。

終盤は言語と政治や文化の関係が述べられています。方言として存在している八重山語や八丈語は、ユネスコでは独立した言語と認識されていて興味深いです。こうした言語の危機もそうですが、言語学者として英語の早期教育にも警鐘を鳴らしていています。

今までの経験から既に理解している項目もあるので、全て目新しいわけではありませんでしたが、一冊の本としてまとまっているで知識を整理するには便利です。題としては「空気」ではなく「状況」にしてほしかったかな。「空気」という言葉があまり好きではないので。




[ 2013/10/03 21:25 ] 言語 | TB(0) | CM(0)

2011年11月06日(日)

英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 

英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)
著者:斎藤 兆史
出版:中央公論新社
発行:2000/05

評価〔B-〕 方法ではなく情熱と姿勢がすごい
キーワード:英語、近代、伝記、

欧米の英語がまだ絶対的な規範として仰がれていた時代に、『ロミオをジュリエット』を演じる英国人の役者に向かって、「てめえたちの英語はなっちゃいねえ」と英語で一喝した日本人がいた。(第3章より抜粋)


日本の社会では英語は重要だと言われていて、社会人になっても習得に励んでいる方もたくさんいますが、調査によると日本人の英語力はとても低いそうです。日本人は語学に向いていないのでしょうか?しかし、昔の日本にも英語を母国語とする人と同じくらい、あるいはそれ以上に英語を知り操る人々がいました。そんな達人たちの勉強方法と一生を紹介しています。

基本的に日本にいながらにして英語力を身につけた人物が挙げられています。しかし、紹介する人数が10人と多く、どうしても簡略化された説明になりがちなので、面白みに欠けるところがあります。また、彼らの学習方法から学ぶと書かれていますが、その語学力は尋常でない努力と天与の才で得たものが多く、参考になるのかどうか疑問です。

けれど、達人たちの英語に関する逸話は興味深いです。英語でからかわれても、機転を利かせて英語でやり返してしまうのは凄いです。外交や教育など英語以外にも目的のあった彼らは、なんとしても目的を達成させる気概があったからこそ、達人になりえたのだと思います。著者の受験英語の何が悪いのかと書いているのも、こういう人達を見ていると一理あると感じます。

言語習得において、初歩の段階では英語がうまいと言われ、支障がなくなるにつれ何も言われなくなるそうです。また、日本人が英語を学習する場合、ある程度英語ができるようになると英国・米国的な思考に変化しますが、さらに習得するとまた日本人的な思考に戻るそうです。興味深いですね。

結びに著者は、英語を学ぶ際に欧米文化に従属するのではなく日本と日本語についてもしっかり学び、日本人の英語の意味を問いかけています。達人たちの真似をすることは難しいですが、外国語を学ぶときは肝に銘じておくべきだと感じました。




[ 2011/11/06 14:54 ] 言語 | TB(0) | CM(0)

2011年10月03日(月)

ことばと文化 

ことばと文化 (岩波新書)ことばと文化 (岩波新書)
著者:鈴木 孝夫
出版:岩波書店
発行:1973/05/21

評価〔B+〕 言語の違いの面白さを知る
キーワード:言語、文化、

私は英語を学び出してから、もう三十年以上になる。米国やカナダにも何年か滞在したこともある。それなのに英語の lip が、このように日本語の「くちびる」とは違っていることに気付いたのは、なんと二、三年前のことでしかない。(P43より抜粋)


国際化が進むにつれ役に立つ言語とそうでないものの差が出てきて、どんどん言語の総数は減っていますが、それでも世界には数多くの言語が存在しています。日本語をそうした他の言語と比較することにより、日本の文化の特色と明らかにし、また言語と価値観・習慣の関係も分かりやすく説明していく、文字通りことばと文化の入門書です。

言語学の本ですが全体的に分かりやすく、やや専門的かなと感じたのは6章くらいです。外国語と母国語の違いを、著者の日常の体験から解説しています。上記の引用のように、lip と唇はまったく同じものを指していると思い込みがちですが、実は少し違います。辞書には違いが書いていないとありましたが、僕の電子辞書には記述されていました。これは、本書が1973年発行で昔の本だからでしょう。それ以外にも、同じような表現だけれども属している文化が違うために、価値観の違いが目立つ例も挙げられていて興味深いです。

ことばの定義で、辞書を引くと堂々巡りに陥ってしまうことが書かれています。やはりあの循環は説明になってないよね。

また、「お姉さん」という呼びかけはあるのに、なぜ「妹」と呼びかけることはないのか。迷子の小さな子供に対して血縁者でもないのに、なぜ大人は「おじさん」「おばさん」と自分のことを呼ぶのか。日本語話者としては当然すぎて考えもしないような言い回しを、多言語と比較して考察しています。日本語は何かと年齢を気にする言語だよね。先輩、後輩、先生など。儒教圏では日本より年齢に厳格なので、もっと年齢や上下を示す単語が多いんでしょうね、きっと。

既に身をもって経験したこともあったので、新鮮だったとは言えません。しかし、異文化や日本語についての本を読んだことのない人には、とても有益です。古くても古さは感じないでしょう。




[ 2011/10/03 20:47 ] 言語 | TB(0) | CM(0)