2016年10月13日(木)

ジーキル博士とハイド氏 (光文社古典新訳文庫) 



著者:ロバート・ルイス スティーヴンスン (著), Robert Louis Stevenson (原著), 村上 博基 (翻訳)
発売日: 2009/11/10

評価〔C〕 精神だけでないのが驚きです。
キーワード:イギリス、人格、医者、サスペンス、

わたしをこんなわたしにしたのは、なにかの欠陥の肥大よりは、妥協を許さぬ向上心であり、それがわたしのなかに、人間の二面性をかたちづくるあの善と悪の領域を、大多数の人におけるよりも深いみぞをもって二分したのだ。(本文より抜粋)


解説にもありましたが、有名であるけれど読んだことのある人は実は少なそうです。二重人格もしくは人の二面性を題材とした有名な作品で、本を読まない方でも本書がそれらの代名詞であることはご存知だと思います。

実際読んでみて驚いたのは、ジーキル博士の視点で展開するのではなく、彼の友人のアタスンを軸に進むことです。謎がありそれを解明していくサスペンスの構成で、単純に心理描写だけよりも面白いと思います。また、ハイドになると外見も変わってしまうことはかなり意外でした。少し現実味が薄れ、創作色が強くなった気がします。

終盤のジーキル博士の独白は苦悩が恐怖が伝わってくる文章でしたけど、どこか読みづらい印象を受けました。彼のような心境がうまく想像できないからでしょうか、それとも文学的な表現だったからでしょうか。単に読解力不足なのかも。文学的な難解な言い回しよりも、短く誌的な表現または一言に全てがつまっているような台詞のほうが分かり易くて好きです。

本書が初めて世に出て、初めてこうした人格を知った人々は驚いたに違いありません。エポックメイキング、新境地を開いた作品でした。でも、当時は衝撃的だったかもしれませんが、今では珍しくない良くあるテーマで、残念ながら新鮮さはありませんでした。



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[ 2016/10/13 21:50 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2013年06月28日(金)

地獄変・偸盗 (新潮文庫) 

地獄変・偸盗 (新潮文庫)地獄変・偸盗 (新潮文庫)
著者:芥川 龍之介
出版:新潮社
発行:1968/11/19

評価〔B〕 どこか怖い感じ
キーワード:文学、近代、短編集

ああ、これでございます。これを描く為めに、あの恐ろしい出来事が起ったのでございます。(地獄変より抜粋)


芥川が平安時代を題材に書いた“王朝もの”の短編集です。名前だけは聞いたことがある「藪の中」や表題作「地獄変」などが6編収録してあります。本書の作品は、解説によると全て「今昔物語」と「宇治拾遺物語」を元にアレンジしたものだそうです。入手したのが改版なので、文字が大きくて見やすいので助かります。

印象に残ったのは「地獄変」です。地獄変という言葉の意味が分からなかったのですが、どうやら地獄の様子を描いたもののようです。高名でありながら性格の悪い絵師・良秀が、権力者に地獄変を描けと言われたのをきっかけに起きた、ある出来事が綴られています。裏表紙には芸術と道徳の相克・矛盾とありますが、そう難しく考えなくても何か感じるものがあるほど凄まじいです。良秀を理解できるかできないか、はっきり分かれそう。

また、有名な「藪の中」は何ともいえない読後感でした。面白い手法だと思いますが、最終的にどう解釈してよいのやら……。でも、物事は一面から見ていては分からない、真実は人によって変わりえるものだという懐疑的な人生観は分からなくもないです。読み終わった後、いろいろ考えてみるのが興味深い短編です。

他の感想文でも書きましたが、本書も注釈が多いのが慣れません。どうにかならないものでしょうか。読むテンポが乱れるのが気になります。悲劇的なものや分かりにくい作品が多いと思いますが、それはそれで面白く、また普遍的なものも感じました。






[ 2013/06/28 21:20 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2013年02月28日(木)

羅生門・鼻 (新潮文庫) 

羅生門・鼻 (新潮文庫)羅生門・鼻 (新潮文庫)
著者:芥川 龍之介
出版:新潮社
発行:2005/10

評価〔C+〕 人間味あふれる短編集です。
キーワード:文学、近代、短編集

禅智内供の鼻と言えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって、上唇の上から顎の下まで下っている。(鼻より抜粋)


「王朝物」と呼ばれる平安時代を題材とした歴史短編小説集です。表題作の「羅生門」と「鼻」を含む全8編が収録してあります。今昔物語を出典としたものが多いです。昔、教科書で読んだ羅生門はどのような感じだったかなと思い、読むことにしました。

「羅生門」は視覚的に強いイメージの残る作品でした。下人がどうしてあの最後の行動に至ったか、その理由を忘れていたので、読んですっきりしました。

印象に残ったのは、「鼻」「好色」と「俊寛」でしょうか。前者2つは時代を越えて通じるものがあると思います。ま、これは他の短編にも言えることなのですが、この2つが強くそう思いました。そして、「好色」の範実の主張する平中の功徳は、僕が大人になってから「こういう見方もあるよね」と思っていたことと同じだったので、驚きと共感を覚えました。また、「俊寛」は島流しにされた者の話ですが、彼らの暮らしは案外このようなものかもしれないと思わせてくれます。しかし、他の短編もそれほど面白いとは思いませんでした。一番長い「邪宗門」も未完で、これからというところで終わってしまいますし。これがきちんと完結していれば、本書の評価も違っていたかもしれません。

注釈の多さが少々煩わしく感じました。もっと話に入り込みたいのに、後ろの注釈を確認するたびに読むテンポが損なわれるのが残念でした。ちなみに、解説・あとがきは、三好氏より吉田氏のほうが分かりやすくて良かったです。



[ 2013/02/28 22:18 ] 小説 | TB(0) | CM(1)

2012年11月02日(金)

変身(新潮文庫) 

変身 (新潮文庫)変身 (新潮文庫)
著者:フランツ カフカ
出版:新潮社
発行:1952/07/30

評価〔B-〕 なるほど。理不尽です。
キーワード:近代、理不尽、不合理

ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の床で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。(本文より抜粋)


冒頭からいきなり変身しています。理由は説明されないまま、淡々と虫になったグレーゴルや彼の家族の様子が描写されていく、カフカの代表作です。今更ではありますが、2012年新潮文庫の100冊です。手元にある本の表紙とは、上のAmazonの書影とは違います。

学校に通っていた頃、同級生が本書について「あれ何でいきなり虫なんだよ。訳分かんねぇ」みたいなことを言っていましたが、確かに物語の筋だけを追うとグレーゴルの運命は理不尽や不合理だと感じます。しかし、娯楽作品ではなく文学作品であることを考えると、「虫」は何かの象徴であることが想像できます。それでは何の象徴なのか?事情があって家から出られない人? 解説にも書かれているように、専門家でもはっきりと断言できないようです。僕も著者が何を言いたかったのか、明確には分かりません。何か言いたいことだけは分かりますが、もやもやした感じです。

グレーゴル自身の心境の変化よりも、彼の家族の変化のほうが印象に残りました。特に結末が。あれで良いのでしょうか。怖くもあり、明るくもあるあの終わり方も、理解できるようなできないような感じです。虫になった後、もっと見世物のようなものになるのかなと思っていましたが、よく考えるとあの内容のほうが現実的なのでしょう。

分からない、いや分からなくはないが、んー、やはりよく分からない。何が理解できたのかなんだか自分でもあやふやになってくる小説です。これがシュルレアリスムなのか。




[ 2012/11/02 07:23 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2012年02月01日(水)

お伽草紙 (新潮文庫) 

お伽草紙 (新潮文庫)お伽草紙 (新潮文庫)
著者:太宰 治
出版:新潮社
発行:2009/03

評価〔B〕 ユーモアのある中期の太宰
キーワード:文学、太宰治、御伽噺、

「お前は、まあ、何を言い出すのです。私はそんな野蛮な事きらいです。亀の甲羅に腰かけるなどは、それは狂態と言ってよかろう。決して風流の仕草ではない」(お伽草子 浦島さんより抜粋)


日本や中国の古典・民話・伝承を下敷きに、著者が自由に物語を創作した短編集です。数編の中国の物語と、井原西鶴の作品を元にした「新釈諸国噺」、日本の昔ばなしを作り変えた「お伽草子」となっています。全編パロディのような本です。

太宰と言えば代表作・人間失格のせいか暗いイメージがありますが、中期ではお伽草子のようなユーモア溢れる小説を発表していて意外でした。詳しく描かれていないおじいさんや狸の性格を想像して個性を出すのは、解説でも書かれているように得意そうです。竜宮城の著者の解釈は斬新だと思いました。御伽噺は覚えているようで、かなり忘れています。特に、舌切雀は本来の話がまったく思い出せません。今度確かめて、太宰のそれと見比べてみます。

一方、「新釈諸国噺」は、著者が世界で一ばん偉い作家と絶賛した西鶴の作品を、独自に書き変えたものです。諸国と題しただけあって、日本の様々な地域を舞台とした小品を選び書いています。西鶴と著者を通して、当時の社会の様子や人々の想いが分かります。武士の義理を描いた「義理」、庶民の大晦日がテーマの「遊興戒」などは、時代を感じます。人の言動自体は今とあまり変わりなさそうですけどね。「赤い太鼓」はオチが良いです。最後の長台詞は実に上手い。

中国の古典の中では「清貧譚」が好みです。才之助の意地っ張りなところが。貧乏人のプライドは、客観的にはあのように見えるのでしょうか。うーん。

全体的にユーモアと遊び心に溢れています。太宰治が暗くて取っつき難いと思っている方には、本書から読むことをお勧めします。印象が変わる短編集となるでしょう。



[ 2012/02/01 22:58 ] 小説 | TB(0) | CM(0)