2016年11月03日(木)

平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫) 



著者:M・スコット・ペック (著), 森英明 (翻訳)
発売日: 2011/8/5

評価〔B+〕 序盤は解説よりも具体例が興味深い。
キーワード:心理学、邪悪、善、虚偽、文庫化

これにたいして、私が邪悪と呼んでいる人たちの最も特徴的な行動としてあげられるのが、他人をスケープゴートにする、つまり、他人に罪を転嫁することである。自分は非難の対象外だと考えている彼らは、だれであろうと自分に近づいてくる人間を激しく攻撃する。(第2章より抜粋)


主題は人間の邪悪さ、邪悪な人々についてです。悪と聞くと殺人や詐欺のような犯罪を連想してしまいますが、本書で問題となる悪はそれらとは違います。自分の評価が落ちそうになると、理由をつけて否定する人たちのことです。有能で正しそうに見えるけれど、家族であれ誰であれ責任を押し付け保身を図ります。違法ではないけれど、自分に問題があることが分かっていない厄介な人です。

邪悪な人たちの例として、精神科医の著者と面談をした何人かの人たちが挙げられています。問題行動を起こす子の親や夫婦が登場しますが、著者は特徴として嫌悪感を覚えると記しています。読んでいくと、他人の立場にたって想像することができないので、説得や治療が非常に困難です。邪悪さの中核はナルシシズム(自己愛)であるとする著者の持論は、正しいのかもしれませんね。また、失敗談も隠さず挙げているので、好感が持てます。

こうした特徴を邪悪と呼んだり、邪悪性を精神病と呼ぶのは、まだ何か違和感があります。意識して行っている悪は悪ではないのだろうか、心の特徴を病気と呼ぶのはしっくりこないなあ、と色々考えてしまいます。これから研究されていく新しい分野だと思うので、概念をうまく理解できていないのかもしれません。

悪の治療も少しだけ述べられていますが、実践するのは難しそうです。著者は残念ながら亡くなってしまいましたが、誰か後を引き継いだ研究者がいるのでしょうか? 邪悪性の研究が続いていることを願います。ただ、邪悪な人たちの心配をするだけでなく、自分も邪悪な人になっていないか自問自答することを怠らないようにしたいです。



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[ 2016/11/03 18:46 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2013年10月27日(日)

ひきこもりはなぜ「治る」のか? 精神分析的アプローチ (ちくま文庫) 

ひきこもりはなぜ「治る」のか?: 精神分析的アプローチ (ちくま文庫)ひきこもりはなぜ「治る」のか?: 精神分析的アプローチ (ちくま文庫)
著者:斎藤 環
出版:筑摩書房
発行:2012/10/10

評価〔B+〕 精神分析から見たひきこもり。
キーワード:ひきこもり、精神分析、精神病理、臨床心理学、

ラカンの理論は、よく「欲望の科学」などと呼ばれます。ひきこもりにとっても欲望の問題は極めて重要で、ここでもラカン理論は大変参考になります。(本文より抜粋)


ひきこもりの治療は、どのような考えや理論があるのでしょうか。社会問題であるひきこもりを、社会学ではなく精神分析の視点から何が問題なのかを探っています。そして、臨床家として有名な著者が、彼ら彼女らをより深く理解するために精神病理を解説していきます。

名前だけ聞いたことがあるラカンや、名前すら聞いたことがなかった専門家たちの理論は、なかなか興味深いです。家族との会話の重要性、家族以外の他人との繋がりの価値が分かります。しかし、易しく書いてはいるのでしょうが、抽象的な概念のせいか難しいです。

具体策がまったく書かれていないわけではなく、後半には対応方針がのっています。上から目線や就労の促しは好ましくなく、まず信頼関係を作るために安心してひきこもれる環境作りを、とあってなるほどなぁと思いました。正論より共感と思いやりをという意見は、分かる気がします。

即効性のある手段だけ知りたい方には、著者の他の本を読んだほうが良さそうです。でも、こうした理論に基づいていると知れば、対象者の家族の誤解が減るでしょう。ひきこもり本人よりもその周囲の人向けの本でした。





[ 2013/10/27 21:17 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2013年09月24日(火)

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 

ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)
著者:小林 和彦
出版:新潮社
発行:2011/10/28

評価〔B+〕 主観で綴る貴重な統合失調病記録です
キーワード:闘病記、統合失調症、精神科、精神疾患、幻覚幻聴

立ち上がると、世界が変わってしまった。空はオレンジ色になり、建物や地面はあやふやで、手や足がそれらを通り抜けてしまうのではないかと感じ、すべてのものが自分への脅威となった。(本文より抜粋)


24歳にして突如統合失調症を発症し、入退院を繰り返した患者本人が書きとめた闘病記です。統合失調症は聞きなれていない方も多いと思いますが、簡単に説明しますと幻覚や妄想などにより日常生活が困難となる精神病の一種です。

この病気は思考障害も引き起こし、論理的に筋道立てて考えるのができなくなることが多いそうですが、著者の文章は本人以外が読んでも理解できます。そういった意味で非常に貴重な記録です。

本書には幼年時代から現在までの半生が綴られていますが、発症するまでは波乱万丈というわけでもなく、やや冗長に感じました。しかし、発症してからの文章は興味深く、統合失調症にかかるとこのように世界が見えるのかとめんくらいました。客観的には合理的でない妄想も、主観では理屈の通った合理的な出来事に見え、そして行動した結果、周囲の人々といさかいを起こしてしまうことが分かりました。症状以外の文章は個人的なことが多いので、退屈に感じることがありました。小説ではないので仕方がないのですが。それにしても日記があるとはいえ、ここまで過去のことを細かく書けるなんてすごい記憶力です。

精神科の閉鎖病棟、開放病棟の両方の描写があり、どちらも比較的穏やかで落ち着いた場所のようです。患者と理解ある医療関係者たちしかいない世界は、著者も書いていますが、彼らにとって天国なのかもしれません。

終盤、某事件について『現実と妄想の区別がつかなくなった人間の犯行』と分析されているのを知った著者が、自分も区別がつかなくなったけど人は傷つけなかった、犯罪者と精神科の入院者をごっちゃにされてはたまらないと主張しているのに、はっとさせられました。非常に切実で重要なコメントだと思います。

読むと分かりますが、著者は内向的で記憶力が良く、自分の恋愛成就と世界の平和を願う人です。統合失調症だからまったく理解し合えない、というのは先入観です。偏見を持っている人ほど読んでほしい一冊です。




[ 2013/09/24 21:49 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2010年07月20日(火)

マンガで分かる心療内科1 

マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)マンガで分かる心療内科 1 (ヤングキングコミックス)
著者:ゆうき ゆう
出版:少年画報社
発行:2010/05/12

評価〔B+〕 WEBでも紙でも雰囲気は変わらず
キーワード:心療内科、精神科、メンタルクリニック、ギャグ

このマンガで、この本が真面目に心療内科について扱う本だって、分かってもらえますかね…?(裏表紙より抜粋)


著者のサイトをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。楽しく分かりやすく精神疾患について解説しているWEB漫画の書籍版です。

本書は長編漫画ではなく、1回ごとにテーマを設け、それについて登場人物である心内療と官越あすなの2人が解説していくスタイルになっています。各回7~9ページ程度で、時間をとらずに気軽に読めます。そして、WEB漫画でのギャグもそのままに、重い内容を扱っているとは思えないほど軽く明るいのが特徴です。

以前感想を書いた「メンヘラちゃん」もそうでしたが、うつや認知症など深刻な題材を分かりやすく、そして読んでもらえる形にするのは難しいことです。この軽さやくだらない笑いは、精神科や心療内科をよく知らない人々のためにあります。ギャグは、啓蒙のため、真面目にやっていると信じたい。(笑)

弱点は、解説が初歩の初歩で、おそらく患者が悩みを解消しようとして読んでも役にたたなそうな点です。何も知らない人向けに書かれた本なので、仕方ありませんね。それと、ギャグ。笑いは合う合わないがあるので、読者によって評価は分かれるでしょう。

もし初めて読んだのであったなら、もう少し高評価だったのですが、すでに知っていて読んだことのある回もあるのでB+あたりで。それはそうと、この漫画、ヤングキングで連載してるそうです……連載しちゃうんだ、この酷さで。(笑)




[ 2010/07/20 22:10 ] 漫画 | TB(0) | CM(0)

2010年04月28日(水)

メンヘラちゃん 

メンヘラちゃん

著者:琴葉とこ
サイト:K.
完結:2010/03/14

評価〔S〕 このテーマをここまで描けるとは……
キーワード:鬱、精神病、ギャグ、4コマ

僕には女の子の友達が2人います。(第1話より抜粋)


今まで感想文は入手して読み終わった本だけにしていたのですが、このWEB漫画を読んですごく感想を残して置きたくなったので、書き記すことにしました。

「メンヘラちゃん」は、琴葉とこさんが運営するサイト「K.」で公開されているWEB漫画です。その存在を知ったのは、たまごまごごはんで紹介しているのを読んでからです。とにかく絶賛している、しかも読もうと思えばすぐ読めるWEB漫画。興味を持ったので、早速読みました。

簡単に説明しますと、鬱っぽいメンヘラちゃん、普通の男子のけんこうくん、体の弱い病弱ちゃん、の3人が喋ったり遊んだり悩んだりする4コマコメディです。全107話。絵柄は可愛らしい感じ。メンヘラちゃんが暗いぶん、病弱ちゃんがこれでもかというくらい明るいので、調和が取れているように感じます。

特徴はなんと言っても鬱をメインに取り扱っている点です。前半は、暗くなりがちな題材をブラックジョークとして楽しませてくれます。間違うと不謹慎になりそうですが、その加減が上手いです。後半は、一転して鬱の辛いこと・嫌なことを、真剣に正面から描いています。息抜きにギャグを交えながらとはいえ、強烈です。

鬱病にかかった経験のある僕は、ギャグに笑うことができる反面、辛い心情も思い出したりもしました。例えばちょっとした出来事、50話の「うつぶる」なんて今でも良く思っていることだけに、共感しました。そして、不安や絶望など負の感情表現が凄く、非常に心が揺さぶられました。絵の訴える力は強いです。これ、描くほうも相当気合を入れて描いたんじゃないのかな。きちんと最終話まで描ききったのは立派で素晴らしいです。

さて。鬱っていまいち良く分からない、文章で説明されてもピンと来ないと思っている方も多いかと思います。そんなときには、是非この漫画を読むことが理解の助けになるでしょう。じっくり読んでもらいたいです。最終話のメンヘラの独白が実に良かった。色々思い出してしまったし、重要なことを再確認したWEB漫画でした。





[ 2010/04/28 21:32 ] WEB漫画・同人漫画 | TB(0) | CM(0)