2016年12月29日(木)

ちょっと今から仕事やめてくる 



著者:北川恵海
発売日: 2015/2/25

評価〔B+〕 実に現代的なエピソードじゃないのかな。
キーワード:仕事、職業、人生、

「久しぶりやな! 俺や、ヤマモト!」(本文より抜粋)


あー、初めて働く会社でうまくいかず、行き詰ってしまうことってあるよなー、と思って読んでいたのですが、よく考えたら私もそうでした。時間が経った今となっては客観的に見られるようになったと思いますが、それでも主人公・青山隆の人生がうまくいかない気持ちはよく分かります。

隆は疲れ切って会社から帰る途中、ヤマモトに助けられます。ヤマモトと接するうちに、隆は少しずつ変わり始めて・・・・・・という話ですが、推理小説のようなどんでん返しやコメディのような笑いはありません。中盤の事件の真相やヤマモトの正体も、途中で分かってしまいましたので驚きもありませんでした。しかし、読後感はかなり良かったです。帯に書かれた『人生応援ストーリー』という言葉がしっくりきます。

ライトノベルのような読みやすさと一般書籍で扱うテーマが合わさった、メディアワークス文庫らしい本だと感じました。劇中の隆のような状態の人にとって、本を読むことは時間もないし体力も使うので気が向かないと思いますが、そういう人にこそちょっとでも余裕があるうちに読んでもらいたい本です。これから社会人になる人にもおすすめです。



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[ 2016/12/29 21:35 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2016年12月10日(土)

家事労働ハラスメント 



著者:竹信 三恵子
発売日: 2013/10/19

評価〔A〕 日本の生きづらさの原因に迫る。
キーワード:家事労働、育児、介護、無償労働、

男性の雇用は不安定化し女性の稼ぎは重要性を増しているのに、家事を担う働き手を排除する日本の会社は相変わらず多い。そんな中で世帯賃金を稼げなくなった多くの男性と、家事・育児の担い手を嫌う会社の下で十分にカネを稼げない女性との組み合わせによる新しい貧困化が進む。(第1章より抜粋)


家事は誰かがしなければならない重要な仕事ですが、お金を生み出さないので日本の価値観では軽んじられています。1人暮らしをした時に家事をしてみると分かりますが、手間取り時間もかかるもので、家事をしたことのない人からは過小評価されがちです。日本における家事は主に女性が担当していますが、それが社会にどのような影響を与えているのかを説き、問題点を明らかにしています。

家事はそれ自体だけの問題ではなく、仕事や家庭に強く影響し、はては社会全体を動かす力があります。最近では介護するために仕事を辞めなければならない介護離職が問題となってきました。妻の働き方が夫の働き方に影響を与え、それが家族の在り方、生き方まで左右しているのです。

力仕事を除けば仕事における男女差はないと思っていましたが、家事は女性が行うものという慣習のせいで、男性優位な社会が作られていることを痛感しました。育児や介護を一方的に任せられた女性たちの生の声を聞くと、OECDの報告書に「日本は働く女性冷遇」と書かれても文句が言えません。

時代を下るにつれ、家事に協力的な男性が増えてきましたが、個人の努力だけでは限界があります。職場の意識や法の改正により、労働環境の改善が期待されます。

解決案として外国の例が挙げられていますが、中でも専業主婦大国だったオランダの手法は参考になります。西洋は戦後はずっと男女平等だった印象がありましたけどそんなことはなく、地道な努力によって働き方や人生を変えたことを知りました。

夫婦喧嘩の一因になっているであろう家事の分担は、もはや個人の性格や能力のせいだけではありません。女性について書かれた本ですが、男性も是非読んでもらいたい一冊です。料理なんてしたことないなんて方には特にね。




[ 2016/12/10 21:25 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2016年11月03日(木)

平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫) 



著者:M・スコット・ペック (著), 森英明 (翻訳)
発売日: 2011/8/5

評価〔B+〕 序盤は解説よりも具体例が興味深い。
キーワード:心理学、邪悪、善、虚偽、文庫化

これにたいして、私が邪悪と呼んでいる人たちの最も特徴的な行動としてあげられるのが、他人をスケープゴートにする、つまり、他人に罪を転嫁することである。自分は非難の対象外だと考えている彼らは、だれであろうと自分に近づいてくる人間を激しく攻撃する。(第2章より抜粋)


主題は人間の邪悪さ、邪悪な人々についてです。悪と聞くと殺人や詐欺のような犯罪を連想してしまいますが、本書で問題となる悪はそれらとは違います。自分の評価が落ちそうになると、理由をつけて否定する人たちのことです。有能で正しそうに見えるけれど、家族であれ誰であれ責任を押し付け保身を図ります。違法ではないけれど、自分に問題があることが分かっていない厄介な人です。

邪悪な人たちの例として、精神科医の著者と面談をした何人かの人たちが挙げられています。問題行動を起こす子の親や夫婦が登場しますが、著者は特徴として嫌悪感を覚えると記しています。読んでいくと、他人の立場にたって想像することができないので、説得や治療が非常に困難です。邪悪さの中核はナルシシズム(自己愛)であるとする著者の持論は、正しいのかもしれませんね。また、失敗談も隠さず挙げているので、好感が持てます。

こうした特徴を邪悪と呼んだり、邪悪性を精神病と呼ぶのは、まだ何か違和感があります。意識して行っている悪は悪ではないのだろうか、心の特徴を病気と呼ぶのはしっくりこないなあ、と色々考えてしまいます。これから研究されていく新しい分野だと思うので、概念をうまく理解できていないのかもしれません。

悪の治療も少しだけ述べられていますが、実践するのは難しそうです。著者は残念ながら亡くなってしまいましたが、誰か後を引き継いだ研究者がいるのでしょうか? 邪悪性の研究が続いていることを願います。ただ、邪悪な人たちの心配をするだけでなく、自分も邪悪な人になっていないか自問自答することを怠らないようにしたいです。



[ 2016/11/03 18:46 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2016年10月07日(金)

「ストーカー」は何を考えているか 



著者:小早川 明子
発売日: 2014/4/17

評価〔A-〕 誰しもなりうる可能性があります。
キーワード:ストーカー、心理学、犯罪、精神医学、

『全宇宙の生命を脅かすモノ―― 災いの渦』(本文より抜粋)


相手にしつこく付きまとい最後には事件へと至ってしまう出来事をニュースでときどき見ます。彼ら彼女らはなぜストーカーになってしまったのか? 何をどのような思いでストーキングをしているのか? カウンセラーとして500人以上のストーカーに対応してきた経験から、その本質を分析しています。

序盤から何件もの事例が挙げられていて、自分が思っている以上にストーカー問題は珍しくないことなのだなと認識を改めました。加害者には加害者なりの言い分がありそれが解決への鍵であると説いています。また、ストーカーは何もしなければ事態は悪化していくのみで改善することはないそうです。被害者の新しい恋人が介入するのも危険だそうです。経験豊富なだけあって説得力があります。また、危険度の見分け方やどう対処すべきかの章は、問題が差し迫った人たちへの助けとなるでしょう。警察へどのように相談したら良いかも書いてあります。

ちょっと興味深いと感じたのは、自然相手の職業に就いているストーカーは今までいなかったことです。自然の力や理不尽さを頻繁に体験していると、相手を思惑通りにしてやろうという気が起きないのかもしれません。それと、男女でストーカーの行動に違いがあること。男性は相手の私生活を狙い、女性は相手の公的な場面を狙うそうです。また、ストーカーの半分は女性なのは知りませんでした。

著者は被害者や加害者と直接会いますが、両方に会うカウンセラーは稀だそうです。正しいかどうか断言できないと書いていますが、他の方法と比較してより効果的であると認められるなら、もっと普及してほしいですね。社会の理解が深まり、専門家が増えることで、不幸な事件が起きないことを望みます。



[ 2016/10/07 21:49 ] 心理・哲学 | TB(0) | CM(0)

2016年08月05日(金)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 



著者:橘 玲
発売日: 2016/4/15

評価〔A-〕 残念ながら平等ではありません。
キーワード:社会学、遺伝学、先天的、進化、

結論だけを先にいうならば、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能の遺伝率は77%だ。これは、知能のちがいの7~8割は遺伝で説明できることを示している。(1章より抜粋)


あまり認めたくないような格差や真実を、進化論や遺伝学の研究結果から明らかにしていきます。様々な社会問題を挙げているのかと思ったのですが、各個人の人生に影響を与える身近な話題ばかりで、主に生得的能力・才能、容姿、教育について論じています。

生まれ持ったものの影響が想像以上に大きい、というのが大まかな主旨です。誰しも少しは考えたことがありそうな、しかし口に出すと差別だと思われそうな内容が書かれています。確かに残酷ではありますが、覚悟していたよりも意外ではありませんでした。差別だと非難されることを恐れずに真実を伝えようとする姿勢は、見習うべきものがあります。

一番意外だったのは、子育て・教育の子供の成長に対する影響力です。子育てを経験した親ならば、感覚的に知っているものなのでしょうか。遺伝、子育てに次ぐ第3の要素は新鮮でした。著者の主張に全面的に賛成というわけではありませんけど、確かに一理あると思います。

他にも、ユダヤ人の知能の秘密や、安静時心拍数と犯罪の関係、外見から攻撃性を推測する方法、容姿の美醜の金銭的価値などについて触れていて、極端な意見のようにも感じる時がありましたけど面白かったです。

根拠となる文献が明記されているのは良いのですが、書いてあるだけで文献自体に対する意見は書かれていません。内容の精査はしているのでしょうか。そうした疑問があったためか、根拠があるにも関わらず、文章に重みが感じられないときがありました。また、ほとんどが事実を断言して終わってしまうので、格差の対策案や希望の持てる提案が見られなかったのが残念です。

賛否両論になるのも分かります。読んでいて不愉快になるかもしれませんが、知っていたほうがいいのかもしれませんね。差別的にならないよう注意が必要ですが。内容を鵜呑みにせず、何か失敗した時に都合の良い言い訳に使わないようにしたいです。



[ 2016/08/05 21:58 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)