2012年08月22日(水)

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)
著者:金子 雅臣
出版:岩波書店
発行:2006/02/21

評価〔A-〕 予想よりも深刻でした。
キーワード:セクシャル・ハラスメント、ドキュメンタリー、男女、

つまり、彼らは依然として、セクハラは女性の側に問題があって、その落ち度を言い立てれば、それでことが済むと考えているのである。(第4章より抜粋)


結構前のことになりますが、ある人から職場でセクハラ(のようなこと)をされて困っている話を聞いたことがあります。なんでも何回拒否しても諦めず、しつこくて精神的にまいってしまったと言っていて、自分が思っていたよりも大変な問題だと思い知ったのを覚えています。よく「魔が差した」と言われるセフハラですが、本当にそうなのでしょうか。本書は、公の労働相談窓口で働き多くのセクハラ問題を対処してきた著者が、加害者と被害者の両方の言い分から、問題はどこにあるのか、なぜ起きるのかを問うドキュメンタリーです。

筆者は「魔が差した、というようなものでは決してない」と断言しています。例として挙げられた事例を読むと分かるのですが、加害者は自分ではなく被害者が悪いと頑なに主張しているのです。セクハラが発覚すれば、加害者はすぐ謝罪するのかと思っていたのですが、実際は個人的な男女の恋愛であると弁解し、なぜ訴えられるのか理解できない人が多いようです。びっくりだ。

被害者が示す拒絶の言葉も、恋愛の駆け引きだと言って認めないのが大きな問題ですが、さらに職場での立場を利用して弱い立場の被害者に迫る、俗に言うパワー・ハラスメントも含んだ社会問題であることが分かります。加えて、つい最近まで社会が男性の性の放埓さに寛容だったことも、加害者の行き過ぎた行為を悪化させる原因となっているのも見逃せません。

自分の家族とうまくいっていないことや配偶者では満たされない欲求が、加害者を罪へとつき動かしているのは分からなくもないのですが、それを拒否している被害者にぶつけるのは間違っています。男性優位社会が終わり、社会人として男性も女性も平等であること認識しない限り、問題は解決しません。セフハラで訴えれられた人々は、「女性は職場の華」の時代は自覚すべきです。

セクハラをする男としない男についても書かれていますが、少々分かりづらかったかも。グループ分けしても程度の差でしかないなど。読解力の問題か。

加害者・被害者両方の言い分を載せた良い本でした。女性が読むには辛いかもしれませんが……。もしかしたら自分も加害者になるかもしれないので、そうならないよう気をつけねばと思います。自分はまったく関係ないと思っている人こそ、既に加害者になっているかもしれませんので、社会問題を知るためにも是非ご一読を。





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[ 2012/08/22 21:30 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2012年05月12日(土)

豊かさの条件 

豊かさの条件 (岩波新書)豊かさの条件 (岩波新書)
著者:暉峻 淑子
出版:岩波書店
発行:2003/05/20

評価〔C+〕 具体的な解決策が欲しいです。
キーワード:社会問題、現代、資本主義、NGO

いま人々の暮らしの中から、にじみ出てくる共通の不安は、「不安定な労働と生活」「老後や万一に対する生活保障」「教育と子供の未来」だろう。(はじめにより抜粋)


現代の日本社会は、労働環境や社会保障制度の問題で閉塞感が漂っています。経済が優先され、個人の生活はあまり重視されない状況で、人間らしく豊かに生きるにはどうすべきか、社会や政治はどうあるべきかを改めて問う本です。生活経済学が専門で、長くNGO活動に携わってきた著者が、データと実体験を元に社会問題を掘り下げていきます。

正社員と非正規社員の格差や画一的な学校教育の問題は、どのメディアも関心を寄せていて、まったく知らない人はあまりいないと思います。初版が2003年なので、その当時はまだ注目度が低く意義のあることだったかもしれませんが、今となっては情報の目新しさはありません。このあたりは仕方ないことです。学校については、ドイツの個性を重視した教育が紹介されていて、意欲や自主性がかけているように見える日本の学校には良さそうです。

NGOの活動や生活共同組合の歴史を通して、互助の精神を奨励しています。ユーゴスラビアでの活動やユーゴの子供たちとの触れ合いは素晴らしいし立派だと感じました。でも、その互助や共同が今の資本主義社会の構造を変革できるかと言えば、相当難しいと思います。心が同じ方向を向いている私的な慈善活動と、様々な価値観を持つ巨大な社会では差があります。果たしてその抽象的とも思える意見で変わるのでしょうか。実際、本書の発行から約9年経っていますが、改善されてきたとは思えません。

分析も目指す未来像も良いのですが、解決策が……。僕は自分で理想主義だと思っていますが、ドイツの幾つかの例以外は、本書の提案は現実的ではないように感じられました。残念です。





[ 2012/05/12 21:57 ] 社会・歴史 | TB(1) | CM(0)

2012年04月28日(土)

グロテスク〈下〉 (文春文庫) 

グロテスク〈下〉 (文春文庫)グロテスク〈下〉 (文春文庫)
著者:桐野 夏生
出版:文藝春秋
発行:2006/09

評価〔A〕 毒か薬にはなりそうな本。
キーワード:現代、性、

「あなたはユリコさんのお姉さんで、和恵さんの友達でもあったわけだから、二人と一番関係が深いわ。これを持つ人がいるとしたら、あなたしかいない」(本文より抜粋)


「東電OL殺人事件」を題材に、人の内面を描いた小説の下巻です。本書も心の悪い面で満ちています。

下巻も「わたし」の語りが大部分を占めるのかと思っていたら、和恵を殺害したチャン、ある人物と「わたし」の再会、そして和恵の日記とまるで群像劇のようでした。ひとりで語るよりは、多数の視点から人物や事件を知ることができるので、「わたし」だけから聞くよりは公正な判断ができるでしょう。

「わたし」はユリコを怪物と表現したけれど、「わたし」そして和恵も異常な存在・怪物となってしまったかのようで皮肉なものです。なるべくしてなったのか、回避の道はなかったのか、何とも言えない気持ちになります。和恵の日記は結末が分かっているだけに辛かった。女性の何々という言葉はあまり好きではないのですが、この物語はやはり現代女性の生がテーマなのだなと強く感じました。

印象に深く残ったのは、公判後に再会した人物との会話です。その人物の半生は意外にも波乱に満ちていましたが、それ以上に「わたし」の中身の話が衝撃的でした。とても重要なことで、読者も他人事ではないと言われたかのようです。創作ですが執拗に現実を突きつけてきます。凄い。面白いではなく凄いです。

結末はなんかこの物語らしいです。意外でしたが、そうなるのかとどこか納得したような感じ。凄いものを読んでしまった、読んではいけないものだったのかもしれない、というのが読後の感想です。子供の教育には悪い、いや彼女たちのようにならないように読ませるのが良いのでしょうか。迷います。読者はこの2冊で何を考え何を得るのか。性別や年齢にもよると思いますが、今一度6章のあの人の台詞を読んで考えてみたいと思います。




[ 2012/04/28 23:18 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2012年04月28日(土)

グロテスク〈上〉 (文春文庫) 

グロテスク〈上〉 (文春文庫)グロテスク〈上〉 (文春文庫)
著者:桐野 夏生
出版:文藝春秋
発行:2006/09

評価〔B-〕 予想以上に異様です。
キーワード:現代、性、

「ユリコは何と言っていいのかわかりませんが、ひと言で言うなら怪物でした。恐ろしいほどの美貌の持ち主だったからです。」(本文より抜粋)


1997年3月、ある女性が殺害されました。事件後、被害者の女性は一流と呼ばれる大企業に勤めているにもかかわらず、夜は売春をしていたことが発覚しました。本書はこの「東電OL殺人事件」を取材し題材にした小説です。2003年6月に発行された同タイトルの文庫版です。おそらく。

物語は「わたし」が相手に向かってひたすら喋る、取調べまたは取材のような形をとっています。主な登場人物は「わたし」、彼女の妹で絶世の美女のユリコ、努力家で後に一流企業の社員かつ娼婦となる和恵、天才肌のミツルの4人で、「わたし」は和恵と影響を与えた人たちについて語るのですが、その内容は辛辣で相手を肯定することがほとんどないのが特徴です。また、3章はユリコの手記なのですが、手記を読むと「わたし」の証言と違うところがあり、「わたし」の言うことを鵜呑みにしてはいけないと分かります。どれが事実かは読者が判断しなければならないのが興味深いです。

「わたし」に限らず登場人物たちは利己的で、理解できなくはありませんが、読者の共感を得るのは難しいと思います。悪意、嫉妬、憎しみ、ねたみ、高慢と否定的な単語でいっぱいなので、明るいのが好きな方は読まないほうがいいでしょう。途中、読むのが辛くなることもありました。でも、人の負の部分がこれでもかと描写され、かつ女性として生きる辛さ(のようなもの)も表現されているので、何か感じることは確かだと思います。題名のグロテスクとは、人の内面の異様さ・不快さなのでしょう。「毒にも薬にもならない」という言葉がありますが、本書はそうではないと言えます。

上にも抜粋しましたが、怪物的美貌のユリコとはどのような容姿なのか? 他人を褒めることが滅多になかった「わたし」が、身内にもかかわらず賞賛したその容貌を見てみたい気もするなあ。そんな妹を持つ「わたし」の感情も分からなくはないのですが……。

読むのは辛いですが、この先に何が描かれ、和恵はどうしてそうなったかが気になるので、引き続き下巻を読みます。





[ 2012/04/28 23:13 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

2011年01月13日(木)

異文化理解 

異文化理解 (岩波新書)異文化理解 (岩波新書)
著者:青木 保
出版:岩波書店
発行:2001/07/19

評価〔C+〕 異文化対策の手引書
キーワード:異文化、外国、宗教、民族、グローバリゼーション、

文化的背景を異にする人々が出会い、結びつき、協同する社会がますます拡大し、人々が急激に国境や地域を超えて移動する現在、かつてなく人々は互いに深く理解し合わなければならなくなっています。(はじめにより抜粋)


交通網の発達やインターネットの普及によって、外国人、異なる文化の人々と接する機会が増えてきています。大都会でなくても、他国の人を見かけることは珍しくなくなりました。そんな自分とは違った文化で生まれ育った人たちと上手く付き合っていくにはどうしたら良いか?を考える本です。

文化はある社会の生活様式・習慣と行動規範であると認識していたのですが、本書で「価値である」と記述してあるところがあってなるほどと感じました。価値、つまり文化とは価値観のこと。その価値観には宗教や慣わしなど非合理なものも含まれるのが、異文化理解を困難にしているのだと思います。宗教に限らず、文化理解の鍵は「何をどのように信じているか」なのではと考えています。

理解不足による失敗例や著者の異文化体験など、違いを示す事例が挙げられていて読みやすいです。社会的に空白の時間である「境界の時間」、文化におけるコミュニケーションの3段階、どの文化にも属さない「ディアスポラ」は分かりやすくて面白かったです。宗教のタブー、しぐさの意味の違い、ステレオタイプによる偏見などは、異文化交流の際の準備として有用でしょう。しかし、全体的に異文化に接したことのない人向けに書かれた印象を受け、実際に多少なりとも接した経験のある人には少々物足りない気がしました。宗教の話に偏っている感じでしたし。具体例をもう少し挙げて、様々な価値観について書いて欲しかったですね。前半がちょっと退屈でした。

現代の殆どの文化は他文化と影響しあう混成文化なので、自文化を知ることも異文化理解に通じますし、文化交流によって自文化を再発見することもあります。そんな異文化交流の前の心構えとして読むと、良いのではないでしょうか。





[ 2011/01/13 21:44 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)