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2018年12月17日(月)

バッタを倒しにアフリカへ 



著者:前野ウルド浩太郎
発売日: 2017/5/17

評価〔B+〕 すごく楽しそう。
キーワード:昆虫学、サバクトビバッタ、モーリタニア、ポスドク、

何も取り柄がない自分だったが、フィールドワークを苦に思わないのが取り柄になるかも。このサハラ砂漠ことが自分が輝ける舞台なのではないだろうか。(本文より抜粋)


表紙のバッタ人間を見て、なんだか軽い感じの新書なのかなと思っていましたが、期待を上回る面白い本でした。題名どおり若き昆虫学者がアフリカはモーリタニアに行き、今までまったく異なる環境でバッタを相手に奮戦します。

まず文体が研究者の書いたものとは思えないほど軽めで読みやすいです。まるでネット記者のようです。加えて、数多くのカラー写真が掲載されていて、モーリタニアがどのような場所なのか、バッタの大群とはどのような光景なのかひと目で知ることができます。

面白いだけでなく押さえるべきところはしっかり書かれています。アフリカでのバッタによる被害の深刻さ、ポスドクとして職を得ることの難しさ、生物相手に思うようにいかない研究。いくつもの困難が著者を待ち受けますが、好きなものに対する意欲と行動力で立ち向かいます。最大の決断を迫られた後の第7章に心打たれました。研究所のババ所長が印象深い。

テレビで若い女性の生物学者がジャングルで何か月も暮らしている様子を伝えていましたけど、あの人と同じなんだろうなと思うと納得できます。好きだからこそ、なのでしょう。ここまで突っ走れるのが羨ましいです。

今後どのような成果を出すのか、その時にまた別の本で合えるのを楽しみにしています。



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[ 2018/12/17 21:31 ] 自然科学・医学 | TB(0) | CM(0)

2018年10月12日(金)

精神医療に葬られた人びと ~潜入ルポ 社会的入院~ 



著者:織田 淳太郎
発売日: 2011/7/15

評価〔B〕 一番の原因はなんなのか。
キーワード:精神病、入院、介護、人生、

そこは、平和だが、鍵によって密閉された「鳥かご」のような世界だった。地域との繋がりが寸断された、文字通りの無縁社会である。(本文より抜粋)


精神科病院の病棟は、接点のない人がほとんどなので、実態を知っている方は極一部です。せいぜいドラマや漫画など創作物の中での、暗くて不気味な雰囲気のイメージしかない方ばかりではないでしょうか。では、現実の病棟はどのようなところなのでしょうか。著者自ら精神病棟に入院し、何が起きているのか何が問題なのかを綴っている体験レポートです。

病棟の描写は想像よりも落ち着いていて平穏そうに見えますが、数十年も病院で暮らしている比較的健康な患者がいること自体が問題の大きさを示しています。難病のためやむを得なくならばともかく、治療以外の要因、例えば引き取り手の不在などで暮らしていかなければならないのは、どこか腑に落ちません。隔離・拘禁から治療・復帰の場とするには様々な課題がありますが、医療関係者以外の者としてできるのは精神病患者への理解と関心を持つこととあり考えさせられました。

また、日本は諸外国に比べて病床数が格段に多いのは知りませんでした。これは精神医療が充実しているからではなく、病院の経営面から入院患者を多くしているそうで、お金がなければ何もできないとはいえ残念に思います。

本書は患者と医療関係者の生の声に触れていますが、患者の家族や病院経営者の意見もあったらなお良かったです。



[ 2018/10/12 22:38 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2018年06月17日(日)

最貧困女子 



著者:鈴木 大介
発売日: 2014/9/27

評価〔A-〕 想像していたより苛烈でした。
キーワード:貧困、女性、性産業、

家を飛び出したのは「本人の選択」として「もうちょっと我慢すれば」というような言葉を軽々しく吐く者は、同時に加害者と変わらないと僕は思っている。(第三章より抜粋)


解決するのが難しい貧困問題の中で、知られていない若い女性たちの現状を記したドキュメンタリーです。

数多くの生の声が記されていて、その暮らしぶりに驚かされます。ある程度は覚悟して読んだのですが凄惨で、著者が取材はもう限界だと嘆くのも分かる気がします。専門家でも弁護士でもないので客観的な数字がないのが残念ですが、当事者たちの言葉はそれ以上に説得力がありました。

本書に登場する彼女たちのように、苦境に立っている人たちを自己責任の一言で切り捨てる人をネットで見かけます。しかし、実態を知らないから厳しい態度を取ってしまう人が多いのだと思います。具体的に助けることはできないかもしれませんが、非難するだけで終わらないようにしたいです。

印象に残ったのは、どんな学童保育だったら良かったのか?です。厳しい管理が彼女たちの足を遠ざけていることは、注目すべき点だと感じました。管理と居心地の良さを両立するのは難しいですが、もっと利用してもらえるよう何らかの対策が取られることを望んでいます。



[ 2018/06/17 10:41 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2018年03月28日(水)

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち 



著者:ジョン・ロンソン、 夏目 大
発売日: 2017/2/15

評価〔A-〕 外国でも起きていたのか。
キーワード:ネットリンチ、ツイッター、SNS、公開羞恥刑

ツイッター上で、大勢で誰かを強く非難している時、その中に非難されている側の立場を考えている人がどのくらいいるか。これだけ非難して相手は大丈夫なのか、もしかして人格破壊につながるのではないか、と考えている人はおそらく多くない。(第三章より抜粋)


英語のネットスラングでSJWという単語があることを最近知りました。これはSocial Justice Warriorの略で、ネット上で差別とたたかう正義の味方のような人々を意味します。本来なら良い意味なのですが、彼らが攻撃的であったり独善的であったりすることが多いので否定的なニュアンスが強いそうです。彼らの行動は時として何をもたらすのか。本書はネットリンチ、日本でいう炎上、について取材をもとに書かれたドキュメンタリーです。

まず、ネットリンチの被害者のその後を取材しています。情報が古くなるのが速いネットなので、一時有名になってもその後を知らないことがほとんどです。叩かれた人の中には自宅から出られなくなってしまった人がいる一方で、あまり変化がなかった人もいて、その違いを知るためにさらに取材をしています。終盤、ある被害者が壊された人生を取り戻すための活動が綴られていて、手段としては少々すっきりしませんが希望の持てる結末となってホッとし、それと同時にこうしたことは今後増えていくかもしれないとも感じて複雑な気分になりました。

ネットリンチのことを本書では公開羞恥刑と訳していますが、これは意味が分かりやすく良い訳だと思います。リンチでは物理的な暴力を連想してしまいますが、羞恥と言われば恥の意識に訴える刑だとすぐ理解できます。公開羞恥刑は最新の出来事ではなく、過去にも同じような刑罰が存在していたのには驚きました。その件で著者が、刑は司法の手にゆだねられるべきで、一般市民が勝手に罰を与えてはならないというような主張をしています。賛成ですし説得力があって良かったです。

アメリカの記者が書いたものなので、当たり前ですがアメリカの事例ばかりです。個人の国のイメージが強い国ですが、こうした問題はやはり国や文化に関係なく起きてしまうもののようです。研究ではないので具体的な対策は掘り下げることなく、被害者の辛い現状の記述が多いですが、ネット利用者としては知っておいて損のないことだと感じました。




[ 2018/03/28 22:20 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)

2017年09月07日(木)

老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体 



著者:鈴木 大介
発売日: 2015/2/6

評価〔B+〕 防犯対策の本ではありません。
キーワード:振込め詐欺、世代格差、

詐欺の現場プレイヤーのモチベーションは、異様なほど高い。これは取材を重ねるほど痛感したことだった。(第3章より抜粋)


噂で聞いたかテレビで報道していたか忘れましたけど、振り込め詐欺にはタイムカードがあると知った時は、行き当たりばったりでなく組織化されているのだなと驚きました。すぐになくなってしまうかと思っていたら、かなり長い期間流行している振り込め詐欺ですが、一体どのような人物が何を考えながら犯罪を犯しているのでしょうか。取材によって見えてきた詐欺の実態を明らかにします。

現場の雰囲気や行動を小説形式で書かれているので、臨場感があって分かりやすいです。著者もほぼノンフィクションと考えていいと断言していますので、あの物語のような集団がたくさん存在するのでしょう。予想よりも暴力の世界ではなく、連帯意識の強いブラック企業のようだと感じました。行っていることが犯罪なので読んでいて気分は良くないですが、知らない世界を見るという意味では興味深い内容です。中でも、非行少年ではなく、ごく普通の若者を詐欺集団の一員に育て上げる過程が、新興宗教の勧誘と似ているのは凄かったです。本当によくここまで取材したなあ。

著者は世代格差が原因で、貧しい若者が豊かな老人を食いものにしていて、人材と才能の浪費だと主張しています。確かに世代格差は存在して、下の世代ほど大変です。しかし、取材対象にやや肩入れしているのが気になりました。彼らの活動が違法なだけに。もし著者が言うように、彼らがやる気が旺盛で仲間思いの豪胆なら、体育会気質の会社はたくさんあるのでそこで働けば十分やっていけそう、というのは甘い考えなのでしょうか。それとも、ブラック企業は詐欺集団よりも酷いのでしょうか。そうだとしたら、それはそれで大問題です。

振込め詐欺の裏事情を知ることができる、ためになるノンフィクションでした。




[ 2017/09/07 21:50 ] 社会・歴史 | TB(0) | CM(0)